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米企業の自社株買いを促す減税策

2018年03月08日

減税分が自社株買いに

米政府は昨年末、10年間で1.5兆ドルに上る過去最大規模の減税を実施した。米企業は減税分で膨らんだ税引き後利益を、自社株買いに積極的に利用している模様だ。これには、先月から不安定な動きを続ける米国株式市場を支えるというプラス面がある。他方で、設備投資などに多くが利用されないのであれば、減税による直接的な景気刺激効果は、やや期待外れというマイナス面も指摘できるだろう。

ウォールストリート・ジャーナル紙の調査によれば(注1)、米主要企業が発表した2018年1-3月期の自社株買いの総額は、2,000億ドルに達する見通しだという。これは、前年同期の2倍以上の規模である。米政府は企業が設備投資などの支出に回すことを期待して減税策を実施したが、既に企業収益は2桁の増加率を示すなど好調な環境のもとで、減税による追加増加分の使い道に困った企業が多かったとみられる。そこで、減税分が自社株買いを通じた株主還元に回されたのであろう。

海外から国内に還流した利益も自社株買いに

今回の減税策では、米大企業の法人税率が35%から21%へと引き下げられた。さらに、米企業の累積海外利益に対しては、一度だけ8~15.5%の定率での課税が認められた(リパトリ減税)。これが、海外利益の国内還流を促していると見られる。同様の政策としてブッシュ政権下の2005年に施行された本国投資法では、海外から国内に還流する利益への税率が1年限りで35%から5.25%へと引き下げられ、2005年の資金還流額は前年の816億ドルから 2,987億ドルへ急増した。海外から資金還流した利益も、自社株買いに回されていると見られる。

モルガン・スタンレーは、減税分のうち30%が設備投資や労働者への給与支払いに充てられる一方、43%は自社株買いと配当増加の形で株主還元に回されると見込んでいるという。

政治問題に発展する自社株買い

米企業が減税分を自社株買いに回していることは、共和党と民主党の間での格差議論へと発展している。民主党は、個人が持つ株式の84%が上位1割の豊かな個人にあるもとで、自社株買いによる株価の上昇は格差を拡大させていると、政府の減税策を批判している。

これに対して共和党は、多くの企業が減税分を原資に従業員に一時的なボーナスの支払いを実施しており、その金額は平均で千ドル程度に達していると指摘している。そのため、減税の恩恵は幅広い個人に及んでおり、民主党の格差拡大批判は当たらないとしている。

ムニューシン財務長官は、減税分が自社株買いに回っても、経済効果を生むことには違いないとしている。ただし、法人減税策には設備投資の即時償却を認める優遇措置も含まれており、当初から企業の設備投資を促す効果が期待されていたはずである。

他方、収益環境が設備投資を制約している状況ではなく、また長期景気拡大のもとで、企業も既に相当の設備投資を実施したなかで、設備投資への影響を視野に入れて過去最大規模の減税策を実施する必要が本当にあったのか?減税分が自社株買いに回っているという、その使い道についての見込み違いは、減税策自体の妥当性に改めて疑問を投げかけるものとなっている。


(注1)"Buybacks Surge in Wake of Tax Cuts", Wall Street Journal, 2 March 2018

Writer’s Profile

木内登英Takahide Kiuchi

金融ITイノベーション事業本部
エグゼクティブ・エコノミスト
専門:内外経済・金融

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