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収斂しないFRB内での自然利子率を巡る議論

2018年02月27日

FRB、BOEは自然利子率の水準を強く意識

日本銀行や欧州中央銀行(ECB)ではそれほどでもないが、米連邦準備制度理事会(FRB)やイングランド銀行(BOE)の金融政策運営では、自然利子率の水準が強く意識される。

自然利子率とは、需給ギャップを中立にさせる(短期)金利水準であり、一定の条件の下では、潜在成長率に一致する。この自然利子率に中長期の期待インフレ率を加えた水準が、経済に中立的な政策金利の水準となる。需給ギャップがゼロ近傍で、インフレ率が目標値に一致するような状況では、中央銀行が政策金利を誘導していく先の目途となるのが、この水準である。

低下を続けた自然利子率見通し

しかしグローバル金融危機(リーマンショック)後は、FRB内でもこの自然利子率の水準に関する見方が分かれるようになり、それが金融政策運営を巡る意見の相違をもたらし、また金融市場での金利観の形成に不確実性をもたらすようになったのである。

2013年時点では、長期のFF(フェデラルファンズ)金利誘導目標の中期(Longer-run)の予想中央値は4%であった。中長期の期待インフレ率がインフレ目標値の2%に一致すると考えれば、自然利子率は2%程度と想定されていたことになる。それが最新の2017年12月には、中期(Longer-run)の予想中央値は2.75%まで低下している。それは自然利子率が0.75%程度であるとの見方を反映していよう。さらに参加者の予想レンジは、2017年9月の2.3%~3.5%から、12月には2.3%~3.0%へと上限が一段と低下した。

自然利子率がマイナスとの見方も

非常に長い目で見れば、自然利子率はグローバル金融危機以前から変わっていないとしても、危機の影響から潜在成長率が短期・中期的には低下し、またそれに国債需要が強まるといった金融環境の変化も加わって、自然利子率は短期・中期では長期均衡水準よりも下振れているとの見方が、FRB内で次第にコンセンサスとなっていったのである。しかしそれでも、現時点での自然利子率の水準についてのコンセンサスは得られていない。

例えば2017年5月に、セントルイス連銀のブラード総裁は、米国自然利子率に基づく自身の試算値は「-1.33%~-0.45%」であることを示した。そして、この自然利子率と物価上昇率の目標値である2%を合計した「0.67%~1.55%」が、経済に中立的な水準であるとした。

他方でブラード総裁は、需給ギャップは概ね解消されたため、政策金利はこの中立的な水準に維持されるのが望ましいとした。その時点でのFF金利は0.88%程度(誘導目標は0.75%~1.0%)であったことから、既にFF金利は概ね妥当水準まで引き上げられたとした。これを根拠にブラード総裁は、追加利上げの必要はないと主張したのである。

自然利子率の不確実性が長期金利のボラティリティを高める

自然利子率をマイナスとするこうした意見は多数派ではなかったとみられるが、0%程度とする見方は、ある時期では概ねコンセンサスであったとみられる。仮に現時点でもそれが変わっていないとすれば、FF金利は2%程度が中立水準であり、あと2~3回の政策金利引き上げで、その水準にまで達することになる。そのため、景気に過熱感が生じなければ、そろそろFRBは追加的な政策金利の引き上げに慎重となり、引き上げのペースを鈍化させる可能性も考えられる。

他方、世界経済の改善基調を受けて、自然利子率が上昇していくとの見方をBOEのカーニー総裁が示しており、FRB内でもそうした見方が広がっているとの指摘がある。しかしそれは強い根拠に裏付けられたものでないだろう。

この先も、自然利子率の水準に関する不確実性が、金利誘導目標の中期(Longer-run)の予想値を変動させ、金融市場での安定した金利観の形成を妨げよう。またそれが、長期金利のボラティリティの低下を妨げることにもなるだろう。

Writer’s Profile

木内登英Takahide Kiuchi

金融ITイノベーション事業本部
エグゼクティブ・エコノミスト
専門:内外経済・金融

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