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パウエル議長は議会証言で何を語るか?

2018年02月26日

足もとの株価下落はFRBの金融政策に大きく影響しない

2月5日に就任した米連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル新議長は、27日に下院金融サービス委員会で議会証言を行う。これは、23日にFRBが公表した米議会に半期ごとに提出する金融政策報告書に基づくもので、パウエル議長にとっては初めてのこととなる。

金融政策報告書は、新体制の金融政策姿勢を確認できる重要な資料である。報告書では、「先行きの堅調な経済がさらなる緩やかな(further gradual increases) FF(フェデラルファンズ)金利の引き上げを正当化する」と、新体制下でも政策金利の着実な引き上げが実施される、との見通しが示された。

また、過去数週間の金融市場の変動にも関わらず、金融環境が明確に改善した2017年半ば以前と比べれば引き続き株価は高く、社債のスプレッドも縮小している、と指摘している。この点は、足もとでの長期金利上昇、株価下落などの金融市場の変化が、先行きの金融政策運営には大きく影響しないというFRBの現時点での判断を示唆していよう。パウエル議長も議会証言で、同様の見方を示すことが予想される。

インフレ目標を見直す可能性を議論

ところで1月30・31日に開かれた連邦公開市場委員会(FOMC)の議事要旨によれば、インフレ目標を見直す可能性について議論されたことが確認されている。まず、数人の参加者は、インフレ目標を現状の2%ではなく、レンジで示すことを検討すべきと主張した。さらにその他の何人かは、過去のインフレ目標と実際の物価上昇率の乖離を穴埋めする形での政策運営の枠組みが、インフレ期待を目標値に誘導することに資するかを検討すべきとしている。

後者については、実際のインフレ率が目標水準を下回る期間が過去に長く続いた点に配慮して、今後はその分を穴埋めするために、物価上昇率がインフレ目標値を上回る、いわゆるオーバーシュートを容認すべきとの考えを意味している。前半についても同様に、目標値を上回る物価上昇率をある程度容認すべきとの主旨であろう。

議事録を見ると、参加者は、先行きの物価上昇率については、明確に高まるとの見方とそうでないとの見方に分かれている。しかし、仮に物価上昇率が明確に高まり、インフレ目標を上回っても、それに対応して金融引き締めペースを一気に加速させるのではなく、ある程度の物価上昇率の上振れを容認すべきというハト派的な考えが、相応に支持されていることを以上の記述は意味していよう。

金融政策ルールに懐疑的

FOMC議事録でのこの記述に関連して注目されるのは、23日にFRBが公表した金融政策報告書で、ルールに基づいて金融政策を行うことに慎重な見方が示されたことである。ルールで捕捉されない要素も考慮して、柔軟に政策運営を行うことが重要であるという論点に加えて、様々なルールが示す政策金利の適正水準にかなりの幅があるという、ルールの精度の問題にも言及されている。現時点では、各種のルールが示すFF金利の適正水準には、0%~3%とかなりの幅がある。

FRBにルールに従った金融政策運営を義務付けることは、共和党内で長らく支持されてきた考え方である。イエレン前議長はこれに強く反対してきたが、パウエル体制下のFRBでも同様の姿勢が維持されそうだ。

ところで最も一般的なテイラー・ルールに従えば、FF金利の適正水準は2%超と、現在の1.25%~1.5%よりもかなり高い。さらにこのテイラー・ルールのもとで、実際の物価上昇率が目標値を上回って先行き高まれば、両者の乖離幅以上の幅でFF金利を引上げることが求められるのである。こうした考えにFRBが否定的であることは、目標値を上回る物価上昇率をある程度容認すべきという、既に見たFOMC内での議論とも共通しているのではないか。

パウエル体制は市場コンセンサスよりもハト派か

このように、1月FOMC議事録でのインフレ目標見直し議論と、金融政策報告書での金融政策ルールに懐疑的な議論を合わせて考えると、FRBの実際の金融政策姿勢は、現在の市場でのコンセンサスと比べてややハト派なのではないかと感じられる。

現在7人のFRB本部理事のうち、4人が空席である。このうち一つには、ハト派のカーネギーメロン大学教授のマービン・グッドフレンドが政府に指名されており、間もなく議会で承認される見通しである。残り3人の理事にもハト派が任命された場合には、政策の比重はさらにハト派へと傾くだろう。

この点は、先行きのドル安リスクを高めるものと考えられる。他方、先行きの物価上昇率が顕著に高まらない場合には、現状の政策姿勢に大きな変化は生じないだろう。しかし、可能性は必ずしも高くないと思われるが、仮に物価上昇率が予想よりも顕著に上振れる際には、FRBのハト派姿勢がより明らかになるかもしれない。

その場合、金融引き締めが遅れることで中長期のインフレリスクが高まっているという、いわゆる「ビハインドザカーブ」懸念を生じることで長期金利の上昇が促され、それが株価の下落や社債スプレッドの拡大などをもたらす可能性があるという点に留意しておきたい。

Writer’s Profile

木内登英Takahide Kiuchi

金融ITイノベーション事業本部
エグゼクティブ・エコノミスト
専門:内外経済・金融

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