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現金廃止論を批判するブンデスバンク

2018年02月20日

ドイツ国内では小口決済手段の7割以上が現金

ケネス・ロゴフ、ローレンス・サマーズら著名経済学者が揃って現金廃止のメリットを強く訴えるなか、ドイツの中央銀行、ドイツ・ブンデスバンクは、現金利用の有効性を主張し、現金廃止に反対の立場を明確にしている。

2月14日にドイツ・フランクフルトで開かれた、現金に関するコンファレンスでカール・ルードビッヒ・ティーレ理事は、ドイツにおける決済手段の調査結果を踏まえて、現金の重要性を強く主張している(注1)。この調査は、3年に1度の頻度でなされており、今回公表されたのは2017年の調査結果である。

2017年にユーロ紙幣は6,350億ユーロ発行された。これは7%程度の年間増加率だが、名目GDP成長率のおよそ2倍に達している。現金需要の強さは、ユーロ圏での低金利が長期化するなかで、相対的な現金の魅力が高まっていることを反映していよう。ユーロ紙幣を最も多く発行しているのがドイツであり、ユーロ圏全体の約6割を占めている。ドイツ国内で発行したユーロ紙幣のうち、半分程度はユーロ圏外に流出し、貯蔵されているという。

他方、ドイツ国内での小口決済のうち、現金が74%を占めている。ただし、50ユーロ以上の高額の決済では、現金以外の手段も徐々に利用されるようになってきており、高額決済の35%にはデビットカードが利用されている。その比率は、2008年の調査での26%と比べて高まっている。

ブンデスバンクは反現金廃止、反中銀デジタル通貨発行の急先鋒

ティーレ理事がこの調査結果を踏まえて強調しているのは、現金は依然としてドイツで最も利用されている小口決済手段という点に加えて、「自由の象徴」であるという点である。この点については、ECB(欧州中央銀行)のメルシュ理事も同様の指摘をしており、同氏は、現金の匿名性に特に注目しており、それが様々な活動の自由にも関わっていることを指摘している。また、現金廃止論者がしばしば主張している、高額紙幣が犯罪に利用されているという点については、統計的に十分な裏付けはないとしている。

またブンデスバンクのバイトマン総裁は、デジタル通貨が現金や銀行預金にとって代わることは、近い将来は考えられないとしたうえで、仮に中央銀行が自らデジタル通貨を発行すれば、金融業や金融政策に大きな影響を与えると指摘している。また同氏は、銀行経営に不安が生じた際に、銀行預金から中銀デジタル通貨に一気に資金が逃避するという、デジタル・バンクラン(取り付け騒ぎ)が発生しやすくなる、金融システムの安定性を損ねるという問題点も指摘している。

中銀デジタル通貨発行の課題について議論が深められることを期待

このようにブンデスバンクが、現金廃止や中銀デジタル通貨発行に懐疑的な中央銀行の代表格となっているのが現状だ。筆者自身は、中銀デジタル通貨発行については肯定的な立場であるが、現金廃止や中銀デジタル通貨発行にはなお多くの課題が残されていることは確かである。

こうした課題について、ブンデスバンクがさらに分析を深め、中央銀行間あるいは学術界での議論をより活発にしてくれることを期待したい。


(注1)"Carl-Ludwig Thiele: Unreasonable to demand wholesale abolition of cash", 16.02.2018

Writer’s Profile

木内登英Takahide Kiuchi

金融ITイノベーション事業本部
エグゼクティブ・エコノミスト
専門:内外経済・金融

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