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金融市場のトランプ経済政策への警鐘と鉄鋼製品輸入制限

2018年02月19日

トランプ政権は鉄鋼製品の輸入制限を検討

米国商務省は2月16日、中国製などの鉄鋼・アルミニウム製品の輸入増加が国家安全保障上の脅威になるとして、トランプ大統領に輸入制限の実施を勧告した。国家安全保障上の脅威とは、中国による過剰生産で米国への輸出が増加し、米企業を弱体化させるため、軍需向け製品の供給ができなくなるリスクがあることを意味している。

輸入制限の具体案として、鉄鋼製品は、①すべての国を対象に最低24%の追加関税を適用する、②すべての国に2017年比63%水準の輸入上限枠を設定、③中国など12カ国に最低53%の関税を課し、日本などその他の国には17年実績と同水準の上限枠を設定する、という3案が示された。主なターゲットは中国からの鉄鋼製品の輸入であるが、第1案、第2案ですべての国を制裁の対象としているのは、中国による他国を経由した迂回輸出を阻止することが狙いである。トランプ大統領は、4月中旬までに輸入制限を発動するかどうかを判断する。

貿易摩擦の激化が懸念される

以前から米国の大手鉄鋼メーカーは、米政府に対して鉄鋼輸入に制限措置を適用するように求めていた。2月1日には、米鉄鋼業界の25社・団体が、トランプ大統領に宛てた書簡で、米通商拡大法232条を用いて鉄鋼輸入に「包括的で広範な」制限を課すよう強く要請した。232条は、国家安全保障上の脅威になっていると判断した製品に対する輸入制限措置を可能にしている。ただし、国家安全保障上の脅威とは、輸入制限を実施するための理由付けという側面が強いように思われる。

米国での鉄鋼輸入品に関税などの制限措置が適用されれば、主要国間での貿易戦争に発展する可能性がある。米国への主要輸出国である中国やドイツは、米国政府に自制を求めている。

また日本と欧州連合(EU)は、米国と連携して中国の鉄鋼などの「不公正輸出」を世界貿易機関(WTO)に提訴する道を探ってきた。しかし、米国が日本を含む制裁措置を実施すれば、日米間での摩擦も避けられなくなるだろう。

拡張的な税財政政策が貿易赤字をさらに拡大させるという矛盾

年明け以降にトランプ政権が保護主義的な通商政策姿勢をより鮮明にしているのは、ドル安傾向が進むもとでも米国の貿易赤字が減少しないなか、中間選挙に向けて、国内産業重視の姿勢をより打ち出す狙いがある。

しかし、トランプ政権が大型減税策に加えて大型のインフラ投資を実施すれば、急速な生産性向上などで国内での供給力が大きく高まることが起こらない限り、それは輸入増加を促し、米国の貿易赤字をさらに拡大させてしまうのである。この点はトランプ政権の経済政策の矛盾を示している。

金融市場の警鐘に耳を傾けよ

足もとでの米国長期金利の上昇と株価下落は、こうしたトランプ政権の経済政策に対する一種の警鐘との解釈もできる。米国経済が徐々に需給ひっ迫傾向を強める中での過度に拡張的な税・財政政策は、やや長い目で見たインフレリスクの高まりや供給制約の高まりを通じて、安定成長を妨げてしまう。さらに貿易赤字をさらに拡大させることで、政府と貿易の「双子の赤字」問題をより深刻なものとしよう。それはドルの信認を低下させて、海外からの資金流入にも悪影響を及ぼすだろう。

米国の金融市場は足もとでやや安定を取り戻しつつあるが、1987年のブラックマンデーを受けて、2期目のレーガン政権が財政健全化に大きく舵を切ったように、トランプ政権も足もとでの米国長期金利の上昇と株価下落を金融市場からの重要な警鐘と受け止め、経済政策を修正することが求められる。仮に金融市場の警鐘を無視すれば、より大きな市場の調整をもたらすことになるだろう。

さらなる長期金利の上昇と株価下落は、トランプ政権及び共和党に対する国民の支持を一層低下させ、中間選挙で共和党が下院で過半数の議席を失うリスクをより高める、という点についても冷静に考えてみて欲しい。

Writer’s Profile

木内登英Takahide Kiuchi

金融ITイノベーション事業本部
エグゼクティブ・エコノミスト
専門:内外経済・金融

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