1. HOME
  2. ナレッジ&インサイト
  3. 研究員の時事解説
  4. 木内登英のGlobal Economy & Policy I…
  5. 最近の株価下落とブラックマンデーとの比較

最近の株価下落とブラックマンデーとの比較

2018年02月15日

ブラックマンデーとの比較

米国を震源地とする足もとでの価下落を、1987年10月19日に起こった株価暴落、いわゆるブラックマンデーと比較する意見が、しばしば聞かれる。今回、ダウ平均株価は、今年1月26日のピークから2月5日のボトム(いずれも終値ベース)までに10.4%の下落となったのに対して、ブラックマンデー時には1日で22.6%も下落したことを踏まえれば、株価の調整幅では大きな差がある。

また当時は、米国財務省証券10年債利回りは10%を超え、FF(フェデラルファズ)金利は6%を超えていた。現在はそれぞれ2.9%程度、1.25%~1.5%であり、長短金利水準にも大きな違いがある。

ブラックマンデーとの類似点

しかし、経済、金融環境には、当時と現在とで似た点があることも確かである。ともに、直前まで株価が明確な上昇基調にあった。またインフレ懸念が燻り始め、世界的に金融政策の正常化へ向けた動きが意識され、そのもとで米国では長期金利が上昇基調にあった、という点が共通している。

さらに共通点を挙げれば、株価下落がFRB(米連邦準備制度理事会)議長の交代時期と重なったことである。1987年のブラックマンデーの際には、就任直後のグリーンスパンが、株価暴落を受けて利下げに踏み切り、また銀行に対して大量の資金供給を行った。超過準備の金額は、2週間で6割も増加した。

今回は、2月5日のパウエル新議長就任とほぼ同時に株価下落が生じている。13日の就任式典でパウエル議長は、足もとの金融市場の動揺に注意を払う姿勢を示しつつも、金融政策は正常化の過程にあるとして、緩やかな金融引き締めを維持する考えを示している。

インフレ懸念を緩和させる

ブラックマンデーは、「雨降って地固まる」的に、結果的に経済にプラスの効果を生じさせたという側面がある。この点から、今回の株価下落はブラックマンデーに似ている、との指摘は、必ずしも悲観論ばかりを意味している訳ではない。

プラスの効果とは、第1に株価下落をきっかけにしてインフレ懸念が後退し、その後の長期景気回復を助けたという点である。今回も、株価下落が原油価格下落をもたらしているなど、インフレ懸念の緩和に寄与するかもしれない。

良い調整(good correction)となる可能性も

そして第2は、ブラックマンデーの際には、長期金利上昇は個人の住宅ローンの負担を高め、株価下落は個人の資産を目減りさせた。こうした痛みの背景には、レーガン政権のもとでの大型減税や国防費増加による財政赤字の拡大、それと結びついた経常赤字の拡大という「双子の赤字」の問題がある、との認識が国民の間に広がり、それが政府の財政健全化策へと繋がった。市場の調整が、政府の経済政策を好ましい方向へと導いたのである。今回も、株式・債券市場の調整が、トランプ政権の極端な財政拡張策や保護主義的な通商政策を見直すきっかけとなるかもしれない。

この2つの意味で、ブラックマンデーは後から振り返ってみれば、その後の経済・金融市場の安定につながった良い調整(good correction)であり、まさに「雨降って地固まる」的な状況となったのである。今回もそういった効果を期待できるかもしれない。

決定的な違いは金融政策の対応余地

しかし、ブラックマンデーと今回とで決定的に異なる点があることも忘れてはならない。それは、株価急落などの金融市場の動揺や景気情勢の急速な悪化などが生じた際に、金融政策で対応できる余地が今回は格段に小さいということである。特に金利引下げののりしろがかなり小さい。

既にある程度の金融政策の正常化が進んだ米国でさえそうした状況であるということは、正常化がより遅れている欧州、ましてや日本では、そうした傾向はより強く、事態はより深刻である。今回の株価下落は、こうした問題点を改めて思い起こさせているのである。

Writer’s Profile

木内登英Takahide Kiuchi

金融ITイノベーション事業本部
エグゼクティブ・エコノミスト
専門:内外経済・金融

この執筆者の他の記事

木内登英の他の記事一覧

このページを見た人はこんなページも見ています