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BOEのカーニー総裁の記者会見- Earlier and Greater

2018年02月09日

はじめに

BOEは今回(2月)のMPCで金融政策の現状維持を決定した。しかし、今回の見通しに沿って経済が推移した場合、前回(11月)の見通し時点で想定されていたより、「幾分か早期に、かつ幾分か大きく(somewhat earlier and by a somewhat greater degree)」金融引締めを行う必要があるとの判断を示した。

このため、市場では5月MPCでの利上げ観測が高まるなど、早くも相応の反応が生じている。いつものように内容を検討したい。

見通しの改訂

今回(2月)のMPCはInflation Report(IR)の公表を伴う「SuperThursday」である。そこで、新たな見通しをみると、実質GDP成長率は2018~2020年にかけて+1.8%→+1.8%→+1.7%とされ、前回(11月)から2018年が0.2pp、2019年が0.1ppと各々わずか に上方修正された。

同時に公表されたMPCのMinutesによれば、実質所得の減少によって家計消費は減速しているものの、海外経済の拡大とポンド安によって輸出が予想よりも拡大し、これが(Brexitの先行き不透明性という抑制要因は残るものの)設備投資の緩やかな拡大に繋がっている点が指摘されている。

これに対し、CPIインフレ率の新たな見通しは2018~2020年にかけて+2.4%→+2.2%→+2.1%とされたが、これは前回(11月)と全く同じである。同様にMPCのMinutesによれば、足もとでのインフレ率の加速は原油価格の上昇による面が強いとの理解を示すとともに、中長期的にはポンド安による輸入物価の上昇圧力が徐々に減衰するとの見方を維持している。

同時に、インフレ圧力の中心が労働市場のタイト化に伴う賃金上昇に代表される国内要因にシフトしていくとともに、BOEによる適切な利上げによってこうした要因も抑制され、中期的に2%目標に収斂するとのシナリオを維持している。

Trade-offの変化

このように、景気や物価の見通しとその背後にあるメインシナリオには大きな変化がなかったのに、BOEが冒頭に述べたように利上げペースや利上げ幅に関するタカ派的なメッセージを明らかにしたことは、やや分かり難い印象を与えている面がある。実際、カーニー総裁の記者会見でも、多くの質問がこの点に集中した。

この点に関する最も直接的な説明は、実はカーニー総裁からハモンド蔵相に宛てた今回のRemitの中にある。このRemitは、2017年11月のCPIインフレ率が3.1%と、BOEのインフレ目標(レンジ)を超えたため、BOE総裁がその原因や対策を説明するものであり、BOEのインフレ目標の枠組みではお馴染みのものである。実際、今回のRemitでも、前半部分ではCPIインフレ率の主要項目別の分解も示しながら、ポンド安や原油価格上昇の効果を含む輸入物価の上昇がインフレ率高騰の原因であると説明している。

その上で、後半ではインフレ目標の達成と経済成長の下支えとの間のtrade-offについて、興味深く、かつ比較的分かりやすい説明を提示している。つまり、横軸にマクロの超過需要、縦軸にインフレ率をとったグラフを2枚提示した上で-各々2年後と3年後の見通しを対象とする-2016年8月以降の毎回のIRが示唆した見通しをプロットして、それらがどのように推移したかを示している。

これらのグラフに拠れば、今回(2月)のIRによる見通しは、2年後と3年後ともに第一象限-つまり、マクロの超過需要とインフレ率がともにプラス-に位置する。BOEは、これを根拠として利上げに関するタカ派的なメッセージを出した訳である。つまり、2016年8月以降の見通しに対応するドットは、インフレ率の加速を伴いつつ、マイナスの超過需要を解消する方向にシフトしてきた。その結果、第一象限に到達したことは、超過需要を回復するためにインフレ率の加速を許容する必要がなくなったことを意味し、BOEが直面するtrade-offが好転したことになる。

このような推論において重要な仮定は、生産性の伸びが低位に止まることである。実際、今回のIRによれば、景気や物価の見通しの前提として、2018~2020年の生産性の伸び率を+1.25%→+1.25%→+1.0%と置いている(因みに前回(11月)は+1.25%→+1.5%→+1.25%なので、若干の下方修正)。従って、実質GDP成長率が今回(2月)の見通しに沿って推移すれば、マイナスの超過需要が徐々に解消し、プラスに転ずることになる。

こうした生産性の見通しは、英国にとっても中長期的にみて極めて低い。カーニー総裁は、生産性の低下が先進国共通の問題である点を指摘した上で、英国に関しても設備投資の低迷が関与している可能性を挙げた。また、MPCのMinutesには足許で労働参加率が上昇したとの指摘もあるが、今後の労働供給の増加は近年に比べて抑制的との見方が示されている。

そして、同じくMPCのMinutesが指摘するように、各企業が既存の労働者をより長時間勤務させるといった対応の余地は残るが、マクロ的には残された余剰な経済資源(spare capacity)が非常に少なくなっているとの判断によるものであろう。カーニー総裁も、記者会見でこの点を強調したほか、今回(2月)のIRにはこうした余剰な経済資源がGDP比で0.5%しか残存していないとの見方も示されている。

利上げに関するコミュニケーション

こうしたロジックに納得しても、「見通しに沿って推移すれば、より早くより大きく利上げ」というメッセージには分かり難い面も残る。

なぜなら、当局の見通しである以上、適切な利上げを前提としているはずという疑問が生ずるからである。この点は、BOEによる見通しが市場による政策金利の見通しを前提にすることに起因している。つまり、上記のメッセージは、市場の予想が不適切と言っている面もあり、従って、このメッセージを受けて市場が利上げ予想を修正することも当然である。

今回の記者会見では、IRの次回の改訂が行われる5月MPCでの利上げを質す直接的な質問も示され、カーニー総裁が明示的に否定しなかったため、市場では5月利上げを織り込む動きがみられる。

しかし、それはBrexitが円滑に進むというもう一つの大きな前提に基づいており、Brexitの最終的な姿だけでなくTransitionの条 件も含めて、展開如何では企業と家計の行動は上下双方に触れうる。カーニー総裁が自信を示したように不確実性が高い下でも見通しを示すことは可能だが、金融政策の先行きに関しては、通常のフォワードガイダンスとは異なる意味合いを持ちうることにも注意すべきであろう。

Writer’s Profile

井上哲也

井上哲也Tetsuya Inoue

金融ITイノベーション研究部
部長
専門:中央銀行、国際金融

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