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米国長期金利上昇と日本株の大幅下落

2018年02月05日

米長期金利上昇でゴルディロックス(適温経済・適温相場)は岐路に

2月5日の東京市場では、円安・ドル高が進む一方、株価は大幅に下落した。きっかけとなったのは、先週末に発表された1月分米雇用統計で、時間当たり賃金が前月比+0.3%と事前予想を上回り、さらに過去に遡って上方修正されたことだ。米国市場ではインフレ期待が高まるなかで財務省証券利回り(長期金利)が上昇し、①長期金利上昇と、②先行きFRB(米連邦準備制度理事会)の利上げペースの加速が、景気回復に変調をもたらすとの懸念を受け、米株が大幅に下落した。

時間当たり賃金上昇率の上振れは、法人減税の影響(企業が減税分を労働者に還元)、悪天候による経済活動鈍化による労働時間減少など、一時的な影響によるところが大きく、緩やかに賃金上昇率が高まるという従来からの流れが大きく変わったという証拠はないと思われる。

しかし、①グルーバルな金融政策正常化の進展、という観測に、②インフレ懸念、米国での利上げペース加速の可能性、という2つの要因が重なったことで、以前よりも金融市場が経済、市場環境の不確実性を意識するようになったことは確かである。この点から、低賃金、低インフレのもとで、息の長い景気回復が実現できるという楽観論、「ゴルディロックス(適温経済・適温相場)」期待は、岐路を迎えつつあると言えるかもしれない。


社債スプレッド拡大による信用収縮に注意

現在のところ、米財務省証券利回り(長期金利)が急騰している訳ではない。注目すべきなのは、このような楽観期待の修正が、他の市場に及ぼす影響である。米財務省証券利回り(長期金利)の上昇は米国経済を一気に冷やすほどではないが、株高、ドル高傾向がさらに続けば、金融環境の逼迫をもたらし、経済活動に悪影響を与えるだろう。特に注目したいのは、社債市場の動きである。

グローバル金融危機(リーマンショック)後は、主要各国の中央銀行が揃って国債を大量に買入れる政策を実施し、その結果、国債利回りの水準は過度に押し下げられた。低金利下でもインカムゲイン(利子所得)を獲得しようと、投資家は社債、特にハイ・イールド債を買い進め、信用リスクとは見合わない水準まで、スプレッド(国債利回りとの格差)は縮小している。そうしたサーチ・フォー・イールド(利回り追求)の投資行動が債券市場を大きく歪めている。ここに最も大きな金融市場のリスクがあるのではないか、と筆者は考えている。社債市場が本格的に調整を始め、スプレッドが一気に拡大する場合には、信用収縮傾向が強まり、金融市場全体、そして世界の経済活動にも大きな打撃を与える可能性があるだろう。

幸いにして現状ではそうした兆候は見られていない。しかし今後も注視していく必要がある。


イールドカーブ・コントロールの枠組みを見直すインセンティブを高める

米国での財務省証券利回りの不安定な動きは、イールドカーブ・コントロールを続ける日本銀行にとっては大きな懸念である。その不安定な動きが増幅されれば、イールドカーブ・コントロールを維持することが、一気に困難となるためだ。日本銀行の正常化観測は、①まず日本の長期金利を押し上げるとともに、②それが米国の長期金利上昇をもたらし、日本の長期金利のさらなる上昇圧力として戻ってくる、といったブーメラン効果もある。

こうした点から、日本銀行は当面、市場の正常化観測を強く抑え込む情報発信、オペレーションを行うことが予想される。しかし、米国での長期金利の不安定な動きが長期化すれば、それは日本銀行がイールドカーブ・コントロールの枠組みを見直すインセンティブを着実に高めることにつながろう。

Writer’s Profile

木内登英Takahide Kiuchi

金融ITイノベーション事業本部
エグゼクティブ・エコノミスト
専門:内外経済・金融

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