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日銀正常化観測で弾みがつく円高進行

2018年01月31日

日銀の金融政策正常化観測で円高が進む

年明け後の為替市場で、ドル円レートは一気に3%程度、円高・ドル安に振れている。予想外に進んだこの円高・ドル安の背景には、米国政府が通商政策で保護主義的な姿勢を強め、またそれと為替政策を結び付けてドル安誘導を狙うのではないか、との見方がある。しかしそれ以上に大きな影響を与えているのが、日本銀行が金融政策の正常化策に踏み切るのではないか、との観測である。

この観測で、米国では財務省証券(長期)の利回りが上昇しており、日本の国債(長期)との利回り格差は拡大している。それ自体はドル高・円安要因であることから、財務省証券利回りが上昇していなければ、もっと円高・ドル安は進んだ計算になる。

金融政策の正常化観測が強まるきっかけとなったのは、1月9日の金融調節で日本銀行が、超長期ゾーンの国債買入れ額の減額を決めたことだった。長期、超長期の金利が安定している状況下での減額決定は、金融市場では驚きを持って受け止められ、先行き金融政策の正常化が進むのではとの思惑から、円高・ドル安が進んだ。

ダボス会議での総裁発言で再び円高・ドル安傾向が強まる

他方、1月24日の金融政策決定会合後の記者会見で黒田総裁は、「2%の『物価安定の目標』の実現までにはなお距離があることを踏まえると、いわゆる出口のタイミングやその際の対応を検討する局面には至っていないと思います」と発言し、正常化観測で前のめりになった市場の期待を冷やす、いわば火消しをおこなった。この発言を受けて円高・ドル安にはやや歯止めが掛かったが、再び円高・ドル安傾向が強まるきっかけを作ったのは、その黒田総裁自身の発言だったのである。

1月26日のダボス会議のパネル討論で黒田総裁は、「2%の物価目標にようやく近づいている」との発言をした。これが、2%の物価目標達成に自信を持っている、あるいはそれを理由にして、比較的早期に金融政策の正常化に踏み切る、との観測を市場が強め、円高・ドル安に弾みがつく結果となった。

整合性を欠く物価目標達成に関する総裁発言

既に「出口のタイミングやその際の対応を検討する局面には至っていない」と正常化を明確に否定したにも関わらず、こうした市場の反応はおかしい、との声も聞かれた。また日本銀行からは、総裁発言は、2019年頃に消費者物価上昇率が2%程度に達する、という展望レポートで示された政策委員の見通し中央値と整合的だ、といった説明もなされた。

しかし、僅か2日前の「2%の物価安定の目標の実現までにはなお距離がある」との発言と「2%の物価目標にようやく近づいている」との発言では、明らかにトーンが異なる。この点から、ダボスでの総裁の発言後の市場の観測や反応は自然であったとも言える。前者はスタッフの書いた想定問答に沿った発言であったと考えられるのに対して、後者は総裁自身の考えを示したものであったのだろう。総裁は、今までの金融政策が効果を発揮していることを、その場のパネリストにアピールしたかったのではないか。そうした思いが、僅か2日前とは異なるトーンの発言につながったのではないか。

事実上の正常化はさらに進展

いずれにしても、金融市場から日本銀行の正常化観測を払拭するのは、しばらくは難しそうだ。ところで金融市場は、「日本銀行は果たして正常化策に踏み切るか否か」をテーマとしているが、国債買入れ増加ペースの縮小は、2016年9月のイールドカーブ・コントロール導入後、着実に進んでおり、「事実上の正常化は既に相当進展している」、と筆者は考えている。そうであるとすれば、注目すべきなのは、事実上の正常化がさらに進む、特にイールドカーブ・コントロールを見直すことでさらに前に進む結果として、多くの人が事実上の正常化をより認識していくか否か、という点が重要であろう。実際にはそうした形で、事実上の正常化はさらに進むことが予想される。黒田総裁が記者会見で強く否定したのはあくまでも「正式な正常化」であって、正常化ではないとしながら進められる「事実上の正常化」を否定はしていない。

ある程度の円高・ドル安は避け難いか

事実上の正常化がさらに進む過程では、ある程度の円高・ドル安の進行は避けられないように思う。債券市場は以前から事実上の正常化が進んでいるとの認識が相応に広まっていることから、過剰に反応することはないだろう。しかし債券市場と比較すれば、海外プレイヤーの比率が高く、日本銀行の政策意図を十分に捕らえてこなかった為替市場にとっては、さらなる事実上の正常化策はサプライズとなろう。

しかし、円高を恐れて、日本銀行が事実上の正常化の進展をためらえば、国債の買入れが限界に達し、流動性が極度に低下することでボラティリティが高まり、金融市場全体を混乱に陥れてしまうなど、円高進行と比べて格段に大きなリスクを先行き高めてしまうだろう。異例の金融緩和が既に長期化したもとでは、もはや無傷での正常化を望むことはできない。ある程度の円高のリスクは甘受すべきだろう。そして、国内経済が堅調な今であれば、円高によって景気情勢が変調をきたすリスクも限られるだろう。

Writer’s Profile

木内登英Takahide Kiuchi

金融ITイノベーション事業本部
エグゼクティブ・エコノミスト
専門:内外経済・金融

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