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ムニューシン米財務長官ドル安容認発言の真意

2018年01月25日

ダボスでの米財務長官の発言でドル安進行

ムニューシン米財務長官は1月24日、ドル安は米国の貿易にプラスとの主旨の発言をした。この発言を受けて為替市場ではドル安が進み、ドル円レートはで一時108円台まで円高が進んだ。

財務長官の発言に為替市場が大きく反応した理由の一つは、それが、ダボス会議の場でなされたこともあろう。ダボス会議では、トランプ大統領が26日の演説で公正な貿易を訴えることが予想されている。さらにダボス会議開始当日の23日には、中国、韓国企業を念頭にセーフガード(緊急輸入制限)の発動を命じる文書にトランプ大統領が署名し、不公正な貿易には強硬措置を講じる姿勢をアピールしていた。

こうした一連の動きは、米国政府が保護主義的な政策姿勢を強めるとの見方を高めており、これにムニューシン米財務長官の発言が加わったことで、米国が貿易赤字縮小のためにドル安政策を採用するとの観測も浮上させたのである。

過去の米財務長官の発言との比較

ムニューシン米財務長官は、「ドル安は貿易と機会に関連するため、我々にとって良いことだ」と発言したという。他方で「長期的にはドルの強さは米国経済の強さや第1の準備通貨であることを反映している」と、長期的なドル高は容認する主旨の発言もしている。この発言の意図を探るためには、2017年4月のムニューシン米財務長官の為替に関する発言を振り返ってみることが有益だろう。トランプ大統領は就任前後に「ドルは強くなりすぎている」と述べていた。さらに2017年4月12日には米紙のインタビューの中で、「ドルは強くなりすぎている。最終的には害をもたらす」と述べた。

これを受けてムニューシン米財務長官は、2017年4月17日のフィナンシャルタイムズ紙のインタビュー記事で、「ドル高で短期的に輸出が打撃を受けるのは事実」として、大統領の発言を擁護する一方、「長期的に考えれば、強いドルは望ましい。米国経済の信頼と強さの表れでもある」として、トランプ大統領のドル安容認発言の火消しに回った。後半の長期的なドル高についての発言は、今回も繰り返されたのである。

米国の通商・為替政策がドル安リスクに

ただし今回は、ムニューシン米財務長官自らが、米国にとってのドル安の(短期的な)メリットに言及したことが、2017年4月の発言とは異なるものであり、より重要な意味を持つとも言えよう。また、主要国に対するドル指数は、当時は14年ぶりの高値圏にあったのに対し、その後ドル安が進んだことで、現在では3年振りの安値圏にある。

そうした中でのムニューシン米財務長官の今回の発言は、政権がさらなるドル安を通じて米国の貿易赤字の削減を目指す姿勢を強めている可能性を感じさせるものとなっている。そうした見方は、最近のセーフガード(緊急輸入制限)の発動といった保護主義的な姿勢とも整合的であるように見える。米国の通商・為替政策が、ドル安のリスク要因の一つとして重要性を増していよう。

米国長期金利上昇に注目

ところで、米国政府の今後の為替政策を考える上では、米国財務省証券の利回りの動きが重要であろう。米国の長期金利は、昨年末から上昇傾向を強めている。その背景には、原油高、減税による財政悪化懸念、日本銀行の正常化観測に加えて、中国が外貨準備の運用で米国財務省証券への投資を抑制、あるいは停止するとの観測もあった。海外からの米財務省証券投資が鈍化すれば、財務省証券利回りが上昇し、経済に悪影響が及ぶ、あるいは政府の円滑な資金調達に支障が生じる可能性があるだろう。

米国政府がドル安政策に転じたとの観測が、海外からの米国財務省証券の為替リスクを高め、投資の鈍化を通じて財務省証券利回りを顕著に上昇させるような場合には、それがドル安政策採用への歯止め、あるいはドル安政策の撤回に繋がる可能性もまた考えられるところである。この点から、米国財務省証券市場の動きを当面は注視しておきたい。

Writer’s Profile

木内登英Takahide Kiuchi

金融ITイノベーション事業本部
エグゼクティブ・エコノミスト
専門:内外経済・金融

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