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施政方針演説と経済政策の課題

2018年01月23日

施政方針演説で働き方改革関連法案の早期成立を目指す

安倍首相は、1月22日午後の衆院本会議で施政方針演説を行った。首相が意欲を示す憲法改正について、「いよいよ実現をする時を迎えている」と述べ、改正項目や日程といった具体論を避けつつ、国会での議論の進展などに期待を示した。また北朝鮮情勢などを受けて、「年末に向け、防衛大綱の見直しも進めていく」との方針を表明した。これらに加えて、経済政策面では、同一労働同一賃金の実現や長時間労働の是正などの「働き方改革」を進めるため、関連法案の早期成立を目指す考えを表明した。

働き方改革の目的が不明確

働き方改革についての首相の発言の中で、特に注目したいのは、以下の箇所である。「働き方改革は社会政策にとどまらず、成長戦略そのものだ」、「ワーク・ライフ・バランスを確保することで、誰もが能力を思う存分発揮すれば、少子高齢化も克服できる」。残業時間を抑制し、その時間を子育てや介護に当てられるようになれば、女性の就業率の上昇、出生率の上昇を通じて、潜在成長率を高めることも可能となるだろう。

ただし、発言の中で触れられた「社会政策」という左寄りの(リベラルな)政策と、「成長戦略」という右寄りの(保守的な)政策という本来は半ば相反する政策が、働き方改革の中に同時に含まれている点には、やや問題を感じる。例えば残業時間の抑制は、それを通じて労働者の労働環境を改善させるのが目的であれば、左寄りの政策となり、残業時間抑制で労働者の働く意欲を高め、生産性を向上させるのが目的であれば、それは右寄りの政策となる。

また、働き方改革の中の同一労働同一賃金の実現は、労働者間の不平等を正すことを目指すという点では左寄りの政策であるが、非正規雇用者の賃金が引き上げられることで労働意欲を高め、生産性を向上させることを目指すのであれば、それは右寄りの政策となる。

経済政策の効果を高めるには

同じ名称の経済政策に、このように半ば相反する側面もある政策目的が混在しているのである。この点には、左寄りの政策を望む国民、右寄りの政策を望む国民のどちらにも政府の経済政策をアピールできるという、政治的な利点があることは確かである。

しかしこうした政策に基づいて、実際に労働環境などを変えていく企業にとっては、右か左か、どちらを目指して取り組んで良いのか分からなくなってしまう、という問題はないだろうか。

現政権は、過去5年間にわたって多くの成長戦略に取り組んできたが、今のところそれが、労働生産性、潜在成長率、企業の期待成長率を明確に高めた証拠は見られない。その背景には、政治的なアピールを狙って、目まぐるしく、次々と新しい名称の政策を打ち出してきたことに加えて、複数の目的が混在化する形で政策を示してきたことで、企業の取り組みが分散してしまったことがあるのではないか。

企業の取り組みを促すよう、政策目的を明確に整理したうえで、十分に効果が上がるように一つの政策をじっくりと腰を据えて行うことが重要であろう。経済政策が政治的アピールにとどまらずに、しっかりと実効性を挙げ、国民生活の向上に繋げるためには、そうした姿勢が求められるのではないか。

Writer’s Profile

木内登英Takahide Kiuchi

金融ITイノベーション事業本部
エグゼクティブ・エコノミスト
専門:内外経済・金融

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