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韓国の仮想通貨取引規制強化と日本の規制アービトラージ問題

2018年01月15日

韓国で仮想通貨取引所閉鎖の動き

年初から、米国、中国、韓国での規制強化に向けた動きが、ビットコインに価格調整圧力をもたらしている。韓国では1月11日に、法務部長官が「取引所での仮想通貨取引を基本的に禁じる法案を議会に提出する準備をしている」と発言したことが、大幅な価格下落をもたらした。他方で、取引を行う若者を中心に、取引所閉鎖の方針に対して激しい反発が生じたのである。予想外の反響の大きさを受けて大統領府は、まだ何も最終的には決めていないとのコメントを出すに至った。

ただし、規制強化の動きは突然浮上したものではなく、既に年初から韓国は、仮想通貨取引に実名制を導入し、また青少年・外国人による取引を禁じていた。

韓国の仮想通貨投資ブームと「キムチ・プレミアム」

仮想通貨への投資家は韓国国内に300万人以上いると言われている。ビットコインの取引量では、韓国は日本、米国に続く世界第3位とみられる。ただし昨年12月前半の一時点では、韓国での取引が世界の4分の1に達し、人口が6倍以上ある米国の取引量を超えたという見方もある(ウォールストリート・ジャーナル紙)。

韓国で一気に仮想通貨投資ブームが広がった背景には、金融資産価格の高騰があると言われている。株価や不動産価格の高騰が続いた結果、さらなる大幅な値上がりが期待できる投資先を見つけて、投資資金がビットコインなどに流入しているとの説明がされている。

韓国でのビットコイン投資の過熱を象徴しているのが、その価格が国際価格よりも40%以上も高くなったことである。その背景は必ずしも明確ではないが、国際価格よりも割高となっている部分は「キムチ・プレミアム」と呼ばれている。こうした市場の過熱感の高まりが、韓国当局が規制強化に動くきっかけの一つであったと考えられる。

価格暴落時の社会への影響に配慮

過熱感を強める韓国仮想通貨市場で、将来価格が下落した際の、社会的な影響を当局は懸念している。若者と主婦層が多いとされる韓国のビットコイン市場参加者には投資経験の少ない個人も多く含まれているとみられるためである。彼らが投資で過大なリスクをとってしまったうえに、価格が大幅に下落すれば、大きな社会問題に発展することが懸念される。

脱税など犯罪への対応

当局が規制強化に動く第2の理由は、マネーロンダリング(資金洗浄)、脱税などの犯罪に仮想通貨市場が利用されることへの対応である。法務部長官が取引所での仮想通貨取引を禁じるとの考えを示すとほぼ同時に、韓国の税当局は、仮想通貨取引所の主要2社を脱税の疑いで捜索している。

北朝鮮のサイバー攻撃への対応

第3の理由は、北朝鮮からのサイバー攻撃への対応である。1月8日にウォールストリート・ジャーナル紙は、「仮想通貨の一つであるモネロを探し出し、見つけたモネロを北朝鮮の金日成(キム・イルソン)総合大学のサーバーに自動的に送金するコンピューターウイルスが見つかった」と報じた。モネロは送金する側も受け取る側も個人が特定されないため、資金洗浄に利用される可能性が非常に高い仮想通貨として知られている。このウイルスは主に大企業がウイルスチェックに利用するサイトで発見されていることから、企業のパソコンが主に感染している可能性もあるという。

また朝鮮日報によると、昨年12月には韓国の仮想通貨取引所ユービットが北朝鮮からとみられるサイバー攻撃を受け、全取引量の17%を奪われたことを公表した。韓国・国家情報院は昨年6月、韓国最大の仮想通貨取引所ビットサムで発生した3万人分の会員情報流出事件など、仮想通貨取引所へのサイバー攻撃が北朝鮮の犯行である証拠を確保し、検察に提出したという。

日本での規制アービトラージの問題

日本でのビットコインの取引は昨年夏以降活発化し、円建て取引量は世界最大となっているとみられる。その背景として、昨年4月の資金取引法改正で取引所に許可制を導入するなど、適切な規制強化が取引の信頼性を高めているというプラス面が指摘されている。

しかしそれ以外に、中国で仮想通貨の取引が禁止されるなど、海外での規制強化の動きが、相対的に規制が緩い日本へと投資資金を移す動きも背景にあるとみられる。これは、金融規制の回避を狙って金融機関などが活動を海外に移す、規制アービトラージ(regulatory arbitrage)の一種と言えるだろう。

今後世界的に仮想通貨取引に対する規制が強化される中、日本の規制が現行のまま維持されれば、国際的に見て、日本の規制は事実上「緩和」されているとみなされ、それが規制逃れの投資家を海外から日本に呼び込むことになる可能性もあろう。そうなれば、日本は海外政府から批判を受け、規制見直しを検討することを余儀なくされるかもしれない。

韓国での仮想通貨の取引所での取引禁止に関連するニュースを受けて、麻生太郎財務・金融相は、仮想通貨について「何でもかんでも規制すればいいとは思わない」と発言したという。現時点では日本政府は海外での規制強化の動きを静観しているが、今後はこの規制アービトラージは、大きな問題に発展していく可能性があろう。

Writer’s Profile

木内登英Takahide Kiuchi

金融ITイノベーション事業本部
エグゼクティブ・エコノミスト
専門:内外経済・金融

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