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欧州国債発行戦略の変化とMiFIDⅡ

2018年01月09日

欧州では発行入札当りの国債発行規模が減少

欧州では、政府の国債発行戦略に近年変化が生じている。それは新規国債発行入札の頻度を高める一方、1回ごとの発行額(ロット)を抑えるというものである。それは、欧州債務危機後に、プライマリー市場で国債を引き受け投資家などに売却するプライマリー・ディーラーである銀行が、巨額の国債を保有することを避ける傾向を強めていることへの対応である。

さらにその背景には、レバレッジド・比率規制の導入など金融規制の強化を受けて、銀行が一時的にせよバランスシートの拡大を許容しなくなっていることや、欧州中央銀行(ECB)による大量の国債買入れによって国債市場の流動性が低下し、セカンダリー・マーケットでの取引量が縮小するなか、国債保有に伴う価格変動リスクが高まっていること等があると考えられる。

発行規模減少はドイツと英国で顕著

欧州金融市場協会(AFME)によれば、発行入札1回あたりの平均国債発行額は、2013年半ばの26億ユーロから2017年7-9月期には21億ユーロへと、2割程度減少している(注1)。その直接のきっかけとなったのは、入札不調への対応であった。実際のところ当時は、応札額が発行予定額に満たない札割れが相次いで生じたのである。平均応札倍率(応札額/落札額)は2010年初めには1.7倍と1倍に近付いていた。その後2015年初めには2.3倍まで上昇し、現在では2.1倍程度であるいう。

国ごとに見ると、平均国債発行額が特に小さいのはドイツと英国である。ドイツ10年国債の平均国債発行規模は、2012年に44億ユーロであったが、2017年には34億ユーロまで縮小した。また同時期に、英国での10年国債については、33億ポンドから26億ポンドまで縮小している。

MiFIDⅡが国債取引を縮小させた

1回あたりの平均国債発行額を縮小させる以外にも、欧州各国は、新規に発行する国債の年限を多様化することなどを通じて、金融規制強化、金融機関のリスク許容度低下、中央銀行による国債買入れに伴う流動性低下などの逆風が重なる中でも、円滑な国債発行ができるように工夫をしている。しかし足もとでは、さらなる障害が浮上してきた。それが1月3日から施行されたMiFIDⅡ(第2次金融商品市場指令)である。

価格情報の開示や、取引に関する当局への迅速な報告義務が強化されることになったMiFIDⅡの導入によって、システム面での対応への不安などから、市場関係者が取引を控える動きが少なくとも当初は顕著である。そしてそれは、債券市場で特に際立っている。導入初日の当初の取引量は、ユーロ建て国債では過去30日の平均と比べて25%も減少したという。また英国では国債取引は同様の比較で11%の減少だったが、ポンド建て社債の取引は46%も減少したという(注2)。

セカンダリー・マーケットでの国債取引の減少は、プライマリー・ディーラーが新規国債発行で国債を落札することを一段と慎重にするだろう。それは、入札不調から金利が上昇するなど、国債市場に対して新たな攪乱要因となるかもしれない。

MiFIDⅡの導入による国債取引の減少が一時的な影響にとどまらない場合には、欧州各国は1回当たりの国債発行額のさらなる抑制やその他の手段を駆使して、円滑な国債消化を維持する追加措置を講じることを迫られるだろう。


(注1)"Post-crisis reforms force European governments to curtail size of debt sales", Financial Times, January 5, 2018
(注2)"Europe Bond Volumes Fall As New Bank Rules Begin", Wall Street Journal, January 4, 2018

Writer’s Profile

木内登英Takahide Kiuchi

金融ITイノベーション事業本部
エグゼクティブ・エコノミスト
専門:内外経済・金融

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