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金融政策正常化の過程で利鞘拡大を享受する米銀

2018年01月05日

政策金利引き上げ分を即座に貸出金利引き上げに

2018年の米銀の収益環境について、楽観的な見方が優勢となってきた。収益の追い風となる最大の要因が、米連邦準備制度理事会(FRB)による政策金利の引き上げである。J.P.Morganは、昨年12月にFRBが年間3回目となるFF(フェデラルファンズ)金利誘導目標(政策金利)の0.25%引き上げを決めた際に、間髪を入れずに主要貸出金利を同幅引き上げることを発表した。他方で、個人向け預金金利は据え置きを決めている。そのため利鞘が拡大し、同行の収益を拡大させる見通しとなっている。また、足もとで貸出需要が再び回復していることも、FF金利上昇分を貸出金利に転嫁しやすくさせていよう。

預金金利の引き上げに慎重で利鞘拡大

バークレーズ銀行の分析によれば(注1)、2017年7-9月期までの2年間のうち、米国の大手銀行の平均預金金利は0.17%上昇したという。同時期のFF金利引き上げ幅は合計で1.0%であったことから、預金金利への転嫁率は17%である。

前回の利上げ局面では、この比率は約60%であり、今回はFF金利上昇分を預金金利の引き上げに反映する程度がかなり低い。その背景には、歴史的低金利のもとで縮小していた利鞘を回復させたいという銀行側の戦略に加えて、個人顧客が預金金利の引き上げを強く要求していないこと等があり、それが預金金利の据え置きを可能にして銀行の収益を助けている面がある。

減税と規制緩和も追い風に

政策金利の引き上げに加えて、2018年は政府が決めた法人減税策と、金融規制の緩和も、米国金融機関の収益環境改善、あるいは株価上昇に追い風となるだろう。2018年には、金融当局が自己ポジションによる投資の規制、つまりボルカールールを事実上緩和することが期待されている。そうなれば、大手投資銀行にとっては新たな収入源となろう。またFRBは、ストレステストにおいて、大手金融機関が収益をより多く配当や自社株買いを通じて株主還元に回すことを認めるとの期待も強まっている。

預金金利の低位維持はどこまで続くか

このように、米国金融機関は良好な収益環境を享受し、それを株主も享受する方向にあると考えられる。しかし貸出金利を着実に引き上げる一方で、預金金利を低位に維持する姿勢が、「儲けすぎ」との批判を招く可能性が、今後は徐々に高まっていく可能性がある。その場合には、米銀は個人向け預金金利の引き上げを強いられる可能性があるだろう。

また預金金利の設定については、大手米銀はオンライン銀行の動向をより注視するようになっている。こうした銀行は、店舗を持たないことや規制コストの低さなどを背景に、より高い預金金利を提示することが可能である。オンライン銀行が預金金利引き上げを実施することで、自行から預金が急激に流出するような事態は回避するため、大手銀行は、オンライン銀行が預金金利を大きく引き上げる場合には、俄かに預金金利の引き上げを進める可能性もあろう。

さらにFF金利が引上げられる中で、預金金利が低位に維持される場合には、金融政策正常化の効果がそがれてしまうという弊害も生じる。政策金利引き上げが進められるもとでも預金金利の引き上げがなされないと、その分、貯蓄率の上昇(消費性向の低下)を通じた消費抑制効果の発揮などが妨げられる、ということが考えられるのである。FRBが今後この点を問題視し、銀行側に対応を働きかける可能性も残されていよう。

このような点から、金融政策の正常化の過程で、米国金融機関がいつまで好収益環境を享受し、その恩恵を顧客ではなく株主のみに分配し続けられるかについては、不確実な面もある。


(注1)"Looser rules and rising rates set to lift US banks", Financial Times, January 4, 2018

Writer’s Profile

木内登英Takahide Kiuchi

金融ITイノベーション事業本部
エグゼクティブ・エコノミスト
専門:内外経済・金融

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