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FRBのイエレン議長の記者会見-Innovation of communication

2017年12月14日

はじめに

今回のFOMCは、事前の予想通りに政策金利を25bp引き上げた。また、四半期毎の経済見通し(SEP)の改訂では、足許の成長率見通しを引き上げた一方、失業率見通しを引き下げ、物価見通しについては据え置いた。FOMC後の定例会見としては今回が最後となるイエレン議長の記者会見について内容を検討したい。

経済見通し

今回のSEPで目立つのは足許の実質GDP成長率の上方修正である。新たな見通しは、2018~2020年にかけて+2.5%→+2.1%→+2.0%と前回(9月)のSEPによる+2.1%→+2.0%→+1.8%に比べ、2018年が大きく引き上げられた。同時に、それ以降も潜在成長率(FOMCは「長期」成長率を1.8%に据え置いた)を上回るペースで推移する見通しとなった。

この点に関しイエレン議長は、FOMCメンバーの多くがトランプ政権による減税効果を織り込んだ面が大きいことを示唆した。もちろん、イエレン議長も付言したように税制改革の内容やその影響にはなお不確実性も残るが、年内での連邦議会での議決と大統領による署名の可能性が、前回のSEP(9月)に比べて大きく高まったことを映じたものであろう。

一方で、物価見通し(コアPCEインフレ率の見通し)は、前回のSEPから変わっていない(2018年から2020年にかけて、+1.9%→2.0%→+2.0%)。この点を整合的に解釈する上では、失業率の見通しが下方修正された点に注目する必要があろう。

つまり、今回のSEPでは2018年~2020年にかけて3.9%→3.9%→4.0%とされ、前回(9月)の見通し(4.1%→4.1%→4.2%)から相応に引き下げられている。需要が拡大しても労働市場に残存するslackを吸収するので、賃金→物価という波及メカニズムは引続き抑制的と想定されていることが考えられる。

これに対し、労働のslackがなくても、雇用に対する需要増が賃金→物価に波及する圧力は強くないと理解することもできる。7月のFOMC以降、議事要旨が示すように、FOMC内では賃金上昇が抑制的であることに関する構造論が活発に行われているようだ。ただ、筆者はこの点に関する質疑に期待していたが、残念ながら今回の記者会見ではあまり触れられなかった。

理由はともかく賃金→物価のメカニズムが働きにくくなっていることは、FOMCにとって少なくとも二つの課題を提起する。

第一に「長期」失業率の妥当性を再検討する必要性である。FOMCは、デュアルマンデートを明確化した2011年当時に比べれば、「長期」の失業率を下方修正してきたが、それでも4.6%である。これは、近年の実際の失業率だけでなく、上に見たFOMCの失業率見通しとも大きく乖離している。

第二に税制改革が物価に与える影響を明らかにする必要性である。今回の会見で一部の記者が懸念を示したように、米国経済が完全雇用を実現しつつ潜在成長率を超えて拡大を続ける状況の下で、トランプ政権による税制改革が実現すると、総需要の面からは物価上昇圧力が高まるはずである。

イエレン議長は、例えば第二の点に関しては、税制改革によって企業の設備投資が拡大すれば総供給も増える点を指摘した。ただ、いずれにせよパウエル議長の下での次回のSEPでは、「長期」失業率を下方修正するかどうかを含め、賃金上昇が抑制的である要因についてのより明確な説明が求められることになろう。

政策金利の見通し

上記のように、FOMCが景気拡大のペースに関する見方を引き上げ、しかし、物価見通しは不変に維持した以上、政策金利の見通しを前回(9月)のまま維持したこと自体は整合的である。また、前回(9月)の記者会見当時に比べれば、市場がFOMCの予想に収斂する形で、来年の利上げペースに関する見方のギャップも縮小していただけに、2018年に0.7%(25bpずつとすれば3回)というFOMCの利上げ見通し自体も、市場には円滑に受け入れられたようだ。

その上で、今回改訂された政策金利の見通しには、少なくとも二つの注意すべき点がある。

第一に自然利子率との関係である。イエレン議長は、今回の会見の冒頭説明の中で、景気の拡大に伴って徐々に上昇するであろう自然利子率に即して、政策金利の引上げを行うことの合理性を指摘した。この点に関しては異論の余地はないし、上記のように税制改革が総供給にも効果をもつと考えるのであれば、尚更に合理的である。

その意味では、「長期」失業率と同様に、FOMCが自然利子率に関する推計-これは直接に公表している訳ではないが、「長期」の政策金利に近いと考えられる-をどう上方修正するかが注目される。もちろん、この点もパウエル議長の下での新たなFOMCにとっての課題となろう。

第二に金融引締めへの転化である。実際の政策金利が「長期」の政策金利を下回っている限り、金融政策は緩和的ということになる。今回FOMCが示した政策金利の見通しによれば、2018年~2019年は2.1%→2.7%であり、「長期」の政策金利とされる2.8%をともに下回る。しかし、2020年の政策金利見通しは3.1%と「長期」の政策金利を上回るだけに、金融政策は「正常化」から引き締めへ転換すると理解することもできる。

もちろん、この点に関しては「長期」の政策金利自体が上方修正されることで、3.1%の政策金利でも緩和的となることはありうる。また、2020年にはバランスシートの圧縮も本格化しているとみられるだけに、この面からの引締め効果を考慮する必要もあろう。そして、これらの理解やFOMCの対応が、今後の米国債のイールドカーブに大きな影響を与えることは言うまでもない。

おわりに

イエレン議長の4年間を振り返った場合、最も大きな業績はゼロ金利政策の解除とバランスシートの縮小という「非伝統的金融政策」からの撤退を、経済や金融市場に大きなストレスをかけることなく達成したことであろう。

ただ、それを可能にする上では、FRBと市場を含む幅広い経済主体との対話が総じて見れば円滑であった点が大きいように感ずる。イエレン氏は議長就任以前からコミュニケーション政策に深く関与し、dot chartのような新規ツールの導入に貢献した。この点もイエレン氏の貢献として勝るとも劣らぬ重要性を持つように思う。

Writer’s Profile

井上哲也

井上哲也Tetsuya Inoue

金融ITイノベーション研究部
部長
専門:中央銀行、国際金融

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