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バーゼルⅢが最終合意へ

2017年12月13日

「バーゼルⅢ」が最終合意

12月7日に、「バーゼルⅢ」が世界の金融当局間で最終合意に至った。「バーゼルⅢ」の合意は最終段階で1年程度滞っていた。その際焦点となったのは、自己資本比率の分母であるリスクアセットの計測方法を巡る米国と欧州連合(EU)との意見の相違であった。さらに、米国では年初の新政権発足により、国際金融規制の責任者の任命が遅れたことも、議論が滞る原因となったとみられる。

この合意を受けて、特に欧州の銀行は自己資本の積み増しを強いられる。他方で邦銀は、新たな自己資本の積み増しは必要とならない見込みである。新規制は2022年から27年にかけて段階的に導入される。

「バーゼルⅢ」交渉が最終段階で難航

バーゼル銀行監督委員会の上位機関である中央銀行総裁・銀行監督当局長官グループ(GHOS)は、2017年年初の1月3日に、「バーゼルⅢ」見直しの最終化についてのプレスリリース(注1)を公表した。そこでは、「GHOSが見直し提案のパッケージをレビューする前に、資本賦課の最終的な水準調整を含め、いくつかの作業を終わらせるため更なる時間が必要である。このため、当初1月初めに予定されていたGHOS会合の開催を延期することとした」とされた。

最終合意に向けて最大の障害になったのが、リスクアセットの計測の際に、機関毎に過度なばらつきが生じないようにするために導入が検討されている「アウトプットフロア(資本フロア)」の水準を巡る各国の意見対立であった。

「アウトプットフロア(資本フロア)」とは?

「バーゼルⅢ」の議論が進むなかで、自己資本比率の分母であるリスクアセットの計測も複雑化していった。その計測には、共通の基準を用いてシステマティックに算出される「標準的手法」と、機関が独自に作成するモデルから算出される「内部モデル手法」がある。前者は計測が容易で透明性が高く、各機関の比較も容易である。しかし、リスク判断に関する個別の事情が十分に反映されないという問題がある。これに対して後者は、よりきめの細かいリスク判断が反映されるが、その一方で、機関が意図的にリスク評価を低くする可能性があることや測定誤差も高まりやすいという問題点もある。そこで両者を適宜組み合わせて、全体的なリスクアセットを計測しようとするのが基本的姿勢であったとみられる。

しかし内部モデル手法の適用が認められる分野であっても、過度に低いリスク判断がなされることや機関毎の過度のばらつきが生じることを防ぐために、標準的モデルから算出されるリスク(比率)に一定比率を掛け合わせた水準を下限とするルールを導入することが、検討されるようになっていった。これが、「アウトプットフロア(資本フロア)」である。

2016年3月にバーゼル委員会は、自己資本比率のリスクアセット計測に関して、「内部モデル手法」に基づくリスク比率が、「標準的手法」に基づく比率に対して「60%~90%」を下回らないように確保する、との内容を含む市中協議文章を公表したのである。その後のバーゼル委員会での議論は、「60%~90%」という比率のレンジの中で、どの水準で具体的に合意するかという点に収斂していったとみられる。

「アウトプットフロア(資本フロア)」議論を巡り米国が譲歩か?

米国は「内部モデル手法」に懐疑的であるのに対して、EUは「標準的手法」よりも「内部モデル手法」を重視する傾向があり、この姿勢に違いが、「アウトプットフロア(資本フロア)」の具体的な水準を巡る対立に反映されていった。米国は「60%~90%」のレンジの中でより高い水準を、EUは逆により低い水準を、それぞれ主張したのである。この対立が2016年後半には表面化していったとみられる。

2017年5月9日のブルームバーグ社の報道(注2)によれば、バーゼル委は昨年12月の段階で、内部モデル手法の計測結果が標準的手法で算出した数字の「75%」を下回らないとする妥協案を提示したが、域内銀行に不利に働くと主張するEUが反対したため、合意に向けた動きは頓挫してしまったという。

しかし同報道によれば、米金融監督機関を主導するFRB(米連邦準備制度理事会)が最近姿勢を軟化させており、「アウトプットフロア(資本フロア)」で合意に至る可能性が高まっている、とされていた。最終合意では「72.5%」で妥結しており、これは実際に、米国が合意に向けて一定の譲歩をしたことを意味している。

なお残される米国の「バーゼルⅢ」離脱リスク

しかし米国新政権は、国際的な金融規制に関して概して否定的な姿勢であることは変わらないように思われる。他方で共和党議員は、FRBの政策・業務に対する監督・規制を強化する「FRB改革」案を従来から提案しているが、その中には、FRBが国際金融規制に関して議会への報告、同意もないままにバーゼルで合意し、それが国内の金融業あるいは国民の利害を大きく規定することに対して、歯止めをかける主張も含まれていた。

2017年2月23日に、下院金融サービス委員会は、全員の署名入りの書簡をイエレンFRB議長に送り、「もしFRBが、監督担当副議長の承認よりも前に、何がしかの規制を導入することを選択するのであれば、我々は協力してFRBの行動を綿密に調べあげ、必要であればその規制を撤廃するということを認識して欲しい」と強いトーンで牽制している。

さらに、「バーゼルⅡ」と同様に、国際的な金融規制に懐疑的な現米国政府が、最終的に「バーゼルⅢ」の合意を完全に受け入れない可能性もなお残されているのではないか。少なくとも、「米国第一主義」を掲げるトランプ氏が米大統領選挙を制した昨年11月以後、その可能性が強く意識されたことが、「バーゼルⅢ」の議論全体を大きく停滞、あるいは事実上停止させてしまったことは事実であろう。

仮に最終的に米国が「バーゼルⅢ」の合意に完全参加しないことを決定すれば、グローバル金融危機以降の国際金融規制は求心力を失い、規制水準の分断化が、規制の信頼性を損ねる可能性があるだろう。また場合によっては、規制緩和の方向で「バーゼルⅢ」を再度調整するような動きも出てくる可能性もあるのではないか?


(注1) バーゼルⅢ見直しの最終化について(日本銀行仮訳)
(注2)"U.S. Softens Stance in Basel Talks in Push for Capital-Rule Deal"

Writer’s Profile

木内登英Takahide Kiuchi

金融ITイノベーション事業本部
エグゼクティブ・エコノミスト
専門:内外経済・金融

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