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FRBの金融政策正常化のパラドックス

2017年12月12日

矛盾した金融引き締め?

国際決済銀行(BIS)の最新の四半期レポートに、"A Paradoxical tightening?(矛盾した金融引き締め?)"と題した論文が掲載された。ここでは、米連邦準備制度理事会(FRB)が過去4年近く金融政策の正常化を進めてきた中でも、長期金利は上昇せず、また株高が進行するなど、金融環境はむしろ緩和の度合いが強まり、それが金融政策の正常化の効果を損ねているのではないか?あるいは事実上、金融政策の正常化は進んでいないのではないか?といった問題意識が示されている。

政策金利を引き上げる中でも長期金利が上昇せず、金融引き締め効果が十分に発揮されないのではないかという問題意識は、グリーンスパン元FRB議長の「コナンドラム(謎)」という言葉を通じて表現されたこともある。実際には謎ではなく、その背景にあるのは経済の潜在力が低下していることではないかと考えられる。

金融政策が転換された後に不均衡、歪みが蓄積される期間が長期化

こうした現象は、政策金利が引き上げられる中でも、概ね横ばいで推移する安全資産の国債利回りとリスク資産の社債利回りとの差である社債スプレッドが縮小を続け、企業の資金調達コストを低下させるという金融緩和効果を生じさせる傾向がある点からもうかがえる。

図表は、フェデラルファンズ(FF)金利の誘導目標と、社債スプレッドとの関係を見たものである。市場の楽観論の程度、リスクテイクの度合いを示唆する指標の一つである社債スプレッドは、金融政策が緩和縮小方向に転じてから相当期間経過した後に、底を付けて拡大に転じる傾向が確認できる。

さらに注目したいのは、金融政策が転換されてから、社債のスプレッドが底を打つまでの期間が長期化しており、その分、不均衡や歪みが蓄積される期間が長くなっていると考えられる点である。90年代の2回の本格的な政策金利引き上げ時には、その開始から社債スプレッドが底を付けるまでに要した時間は、それぞれ10カ月と7カ月であった。ところが、2004年6月に始まる前回の政策金利引き上げ時には、この期間が実に32ヵ月にも及んだのである。

足もとでも社債スプレッドはなお、概ね低下傾向を辿っているが、2015年12月の政策金利引き上げ開始から既に23ヵ月程度が経過している。また2014年1月のテーパリング開始から計算すると、その期間は既に46ヵ月程度にも及んでいる。


「ゴルディロックス」は経済の潜在力低下の反映

金融政策が緩和縮小方向に転換した後に、このように金融市場の楽観論が一層強まり、また楽観論が続く期間が長期化しているのは、まさに「ゴルディロックス」と表現される、過熱感のない安定した景気回復、インフレ圧力の抑制という環境のもとで、緩やかな金融緩和縮小や金融引き締めの進展が予想され、それが長期金利の上昇や景気悪化懸念を抑制しているからに他ならないだろう。

しかし、「ゴルディロックス」の本質は、生産性上昇率や潜在成長率の低下といった経済の潜在力の低下であり、それが賃金、物価上昇圧力を抑制しているものと考えられる。このような経済の潜在力低下が、皮肉なことに金融市場の楽観論を促し、結果的には経済・金融の歪み、不均衡の形成を助長している面があると考えられる。金融政策正常化のパラドックスは、金融市場の過度の楽観と表裏一体なのである。

Writer’s Profile

木内登英Takahide Kiuchi

金融ITイノベーション事業本部
エグゼクティブ・エコノミスト
専門:内外経済・金融

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