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FRBのデジタル通貨構想「フェドコイン」とは?

2017年12月08日

FRBが中銀デジタル通貨の発行を検討か

米連邦準備制度理事会(FRB)が、中銀デジタル通貨の発行を検討しているとの観測が足もとで高まっている。そのきっかけとなったのは、ウォールストリート・ジャーナル紙が報じたニューヨーク連銀のウィリアム・ダドリー総裁の11月29日の発言である(注1)。それによると同氏は、「FRBによる仮想通貨の供給について話すにはあまりに尚早だが、われわれはそれについて考えている」と述べ、FRBによるデジタル通貨の発行について、既に検討を始めた可能性を示唆したという。さらに同紙によれば、サンフランシスコ地区連銀のジョン・ウィリアムズ総裁も同じ11月29日に、中銀デジタル通貨の発行が、今後10年にわたり「非常に刺激的な(研究)分野」になるとの見通しを示したという。

中銀がデジタル通貨発行のきっかけは?

ただしこうしたFRB高官の発言が、近い将来に米国で中銀デジタル通貨(通称フェドコイン)の発行につながるものとは言えないだろう。そもそも最近まで、FRBは世界の中銀の中でも、中銀デジタル通貨の発行に比較的慎重な姿勢であったと考えられる。一般に、中銀がデジタル通貨の発行を真剣に検討するきっかけとなるのは、民間のデジタル通貨(仮想通貨)が小口決済手段として現金をかなり代替し、それが①中央銀行の金融政策の有効性を低下させる、あるいは、②その利用から排除される中高齢者あるいは低所得者を救済する必要が生じる(いわゆる金融包摂)、などと考えられる。

スウェーデンでは現金利用率が大幅に低下

2017年11月には、南米のウルグアイの中央銀行が、世界初となる中銀デジタル通貨「eペソ」の発行を正式に発表して世界を驚かせた。ただし、ウルグアイの中銀デジタル通貨は、現時点では半年という期限付きのテスト(パイロット・プログラム)という位置づけである。中央銀行の中で、本格的な中銀デジタル通貨の発行に最も前向きであり、また議論が進んでいるのがスウェーデン中銀である。スウェーデンでは、名目GDPに占める現金の比率が足もとでは1.8%程度(2015年)にまで低下しており、信頼できるデジタル通貨をすべての人が安心して利用できるようにするために、中銀がデジタル通貨を発行するメリットが大きくなっている。これに対して米国では名目GDPに占める現金の比率は7.4%程度(2015年)と比較的高水準を維持しており、現金利用の低下が中銀デジタル通貨発行の強いインセンティブとなっているスウェーデンとは状況が大きく異なっている。

コスト削減と犯罪防止の目的

しかしスウェーデンでも、現金利用の低下は、当初は政府と中央銀行が主導したものであった。その背景にあったのは、現金を利用した避税行為を抑制することと、銀行が多くの支店に現金を準備することに伴うコストへの対応であった。こうした点は、現在の米国にも共通していると言えるだろう。特に米国では、ドル紙幣が避税行為のみならず、その他の犯罪行為に広く利用されていることから、それも政府が現金利用を低下させることのメリットとなっている。

小口決済における現金利用の比率は、各国まちまちである。北欧諸国では極めて低い一方、アジア諸国では概して高めである。これらは各国の国民性、歴史など多くの事情によって左右されている。また紙幣の製造コスト、その輸送コストなど、現金が犯罪に利用される程度などについても、状況は各国で大きく異なっている。この点から中銀デジタル通貨発行の議論についても、各国で大きな違いがある。実際に中銀デジタル通貨が発行されるタイミングについても、各国で大きな開きが生じよう。しかしながら、現金利用比率を低下させることに伴う経済的なメリットが小さくない点を踏まえると、長い目で見れば、中銀デジタル通貨は世界中に広まっていくことになるのではないか。


(注1)"Digital-Currency Fever May Spread to Federal Reserve(FRBの仮想通貨「フェドコイン」生まれるか?)", Wall Street Journal, December 5, 2017

Writer’s Profile

木内登英Takahide Kiuchi

金融ITイノベーション事業本部
エグゼクティブ・エコノミスト
専門:内外経済・金融

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