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ドルの覇権維持と懸念されるドル不足

2017年11月30日

ドルの覇権に回復の兆し?

世界の外貨準備に占めるドルの比率は長らく低下傾向を辿り、ドル一極体制からユーロや、将来的には人民元を含む多極体制へと移行していくことが議論されてきた。こうした議論は第2次世界大戦後すぐに始まり、特に1971年のニクソンショック(固定比率による米ドルと金の兌換を停止)以降は一層強まった。さらに1999年のユーロ発足も、そうした議論を勢いづかせたのである。

しかし足もとでは、世界の外貨準備におけるドルのプレゼンス低下に歯止めが掛かっている。また国際決済銀行(BIS)の統計によれば、海外(米国以外)でのドル建て債務の水準は、2017年4-6月期に史上最高水準に達したという(注1)。

ユーロ、人民元のプレゼンス向上には障害

2008年に生じたグローバル金融危機の震源地は米国であったが、それによって、ドルの重要性が顕著に低下するような事態は生じなかったのである。他方で欧州での債務問題や政治的な混乱は、国際市場におけるユーロの地位向上の妨げになったように見える。さらに中国での最近の資本規制の強化は、国際市場で人民元への選好の妨げになっているようにも見える。世界の中央銀行が、外貨準備の構成をドルから他通貨に分散化する動きも、足もとでは弱まっているようだ。

強まるドル不足

日本、ドイツ、フランス、英国などの民間銀行もドル保有の傾向を強めている。このようにドル調達需要が高まる一方で、ドルの供給を絞る動きが強まっている。その背景の一つとなっているのは、第1は、レバレッジ比率規制などの国際金融規制強化により、米銀などがバランスシート拡大につながるドルの貸出に慎重になっていることが挙げられる。第2は、その実効性は必ずしも明確ではないが、米連邦準備理事会(FRB)が10月からバランスシートの縮小を進めており、それが海外市場へのドル供給を制約する要因になっているとも理解されている。

さらに、年末が近づくにつれて、季節的に世界の金融機関のドル調達は拡大する傾向が強まる。こうした点から、ドルの覇権回復の兆しとともに、世界の市場でドル不足傾向が一段と強まる方向にある。

安定したドル調達手段としての銀行の海外戦略

こうした環境で海外金融機関がドルを調達しようとすると、かなり割高になる。それは為替スワップのプレミアム、ベーシススワップの上昇などに表れることになる。現在は、特にスイス系銀行が、ドル調達手段の分散、拡大に腐心しているとも言われている。

その際に、低コストで安定してドルを調達するには、個人のドル預金を確保することが一つの選択肢となる。邦銀も含め、ドル不足下でのドルの安定的な確保を目的に、米国銀行の買収といった形での海外戦略の検討が今後進む可能性が考えられる。


(注1)"Dollar Remains King Years After Crisis", Wall Street Journal, November 28, 2017

Writer’s Profile

木内登英Takahide Kiuchi

金融ITイノベーション事業本部
エグゼクティブ・エコノミスト
専門:内外経済・金融

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