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FRBの物価水準目標は現実的か?

2017年11月27日

FRB内で浮上する物価水準目標の議論

米連邦準備制度理事会(FRB)内で、現在のインフレ(物価上昇率)目標ではなく、物価水準を目標とすることが検討されているとの報道(注1)がなされている。サンフランシスコ連銀総裁のウィリアムズ総裁が、その代表的な論者である。

しかし物価水準目標は、物価上昇率が下振れている際に、物価押し上げに対する中央銀行の強い意志を示して、中長期の予想物価上昇率を高めることで実質金利を押し下げ、政策効果を高めることを目指す観点から、その導入の是非が議論されるのが通例である。金融緩和策の正常化策が進められる現局面で、こうした議論が浮上しているのには違和感がある。

確かに米国の物価上昇率は2%の目標と比べて下振れているものの、その中で正常化策が既に4年近くも進められてきている。こうした柔軟な政策運営が進められている点を踏まえれば、近い将来に、物価水準目標が採用されるとは考えにくいところである。来年2月に始まるパウエル新体制の下で、その議論が一気に進み、金融政策運営に顕著な影響を与えることもまた考えにくい。

物価水準目標の利点は何か?

物価水準目標の利点は、長期的に望ましい政策の方向性が、常に示されるという点であろう。例えば、一定年後に物価水準目標値を設定した場合には、その目標時点まで常に物価のトレンド線を引くことができる。実際の物価がこのトレンド線を下回っていれば、中央銀行はより緩和的な金融政策を採用することで、実際の物価をこのトレンド線上に戻すことが求められるのである。

物価水準目標ではなくインフレ目標であっても、目標値と実績値の乖離が、望ましい金融政策の方向性を示すという点では変わりはない。しかし、インフレ目標の場合には、過去にどの程度目標を達成したかという、過去のパフォーマンスが現在の政策方針に直接的には影響しない点がしばしば問題視される。中央銀行が、過去数年にわたってインフレ目標を達成できなくても、それは常にリセットされていき、現時点でのインフレ目標を達成する政策が求められるためである。

かつて日本でも議論

物価の変化率に目標値を設定する枠組みが、中央銀行の積極的な緩和姿勢を阻害しているとして、物価上昇率ではなく物価水準に目標を設定すべきであるとの議論が過去にはしばしばなされてきた。日本においても、物価上昇率ではなく物価水準に目標を持つべきとの主張が多く聞かれた時期もあった。

問題は極端な政策を強いられること

ただし、物価水準目標の最大の問題は、中央銀行が、過去の失敗分も含めて極端な政策を要求されるリスクがあることである。これは、金融政策の副作用を大きく高めてしまう可能性があるだろう。

さらに目標設定に際して、妥当な物価水準に関する基準、目途を見出すのはかなり困難である。金融政策の基本的な機能は、実質金利を変動させることで需要を調節することにある。この際、実質金利は名目金利と予想物価上昇率からなることを踏まえれば、物価水準ではなく望ましい物価上昇率を目標に据えて政策運営を行うことが自然であるように思われる。


(注1)「FRB物価目標見直し論」、日本経済新聞、2017年11月26日

Writer’s Profile

木内登英Takahide Kiuchi

金融ITイノベーション事業本部
エグゼクティブ・エコノミスト
専門:内外経済・金融

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