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ECBの10月政策理事会のAccounts-Three dimensions

2017年11月24日

はじめに

前回(10月)のECBの政策理事会では、来年1月以降の資産買入れを、来年9月末までの間、現行の毎月600億ユーロ増から毎月300億ユーロ増へ減額しつつ継続することを決定した。もっとも、今回公表されたAccount(議事要旨)は、背後で様々に異なる提案がなされ、メンバーの意見が相応に分かれたことを明らかにしている。そこで本コラムでは、プラート理事が整理した資産買入れの三つの側面-買入れペース、継続期間、柔軟性-に即して、議論の内容や意味合いを検討したい。

第一の側面:資産買入れのペース

来年1月以降の資産買入れについて、プラート理事は、景気の好転によってインフレの2%目標への収斂に対する自信が高まったので、毎月300億ユーロ増まで減額することが適切との考えを示した。これに対して政策理事会メンバーからは、既に多くの資産を保有していることによるストック効果や、資産の再投資の継続による効果等も勘案して適切との意見が示され、多数の同意を得た(broad agreement)。

もっとも、急激な減額によるリスクを回避するため、当初はより大きな金額にすべきとの意見が示された一方、当初からより小額の買入れまたはtaperingを行う、ないしは資産買入れに関するフォワードガイダンスを活用すべきとの意見も示されるなど、硬軟双方の観点からの議論があった。

第二の側面:継続期間

プラート理事は、新たなペースでの資産買入れを来年9月末まで継続することについて、インフレ率が徐々に加速する状況では、継続的かつ忍耐強く(persistent and patient)金融緩和を続けることが重要であり、かつ、政策金利に関するフォワードガイダンスの効果を強めることも期待されるとの考えを示した。

これに対し、政策理事会メンバーは、様々なリスクが残存する下でECBとしてインフレの改善を支えていくのに十分な期間であり、かつインフレ目標に対するコミットメントや市場に対するプレゼンスを示す役割を果たすとの意見を示し、全体として概ね合意した(generally agreed)。

もっとも、この点に関しても双方向からの異論が示された。つまり、景気の強さを考えると、より短期間の継続に止めることでより早期の資産買入れ停止に道を拓くべきとの意見が示された一方、インフレの改善は極めて緩やかなものに止まるとして、より長期の継続が必要との意見も示された。

なお、前者に関しては、来年9月末までとすることに対する賛成意見の一環ではあったが、あまり長期の買入れをコミットすると、経済情勢に対する政策対応の柔軟性を失うとの警告も示された。

第三の側面:柔軟性

資産買入れの柔軟性に関しては、プラート理事は、インフレの目標への収斂に向けた動きを踏まえると、資産買入れの終了時期を明示することは時期尚早との考えを示した。

これに対し、政策理事会メンバーの大多数(large majority)は、インフレのモメンタムや今後の不確実性を考慮すると、資産買入れに関する現状のフォワードガイダンス-期間内は継続するとともに、その後もインフレが目標に向かって継続的に調整されることが確認できるまで続ける-を維持することが適当との意見を示した。また、ECBによるインフレ目標に対するコミットメントを示し、市場の時期尚早な反応を避ける意味でも重要との指摘があった。

もっとも、少数(a few)のメンバーは、資産買入れの終了時期を明示すべきと主張した。その理由として、景気の拡大が続く下で、資産買入れを来年9月末で終了することはインフレの改善見通しによって十分正当化されるとともに、過度な金融緩和に伴うリスクを軽減すると説明した。また、その場合の市場の反応も限定的であるとした。

さらに、現時点で金融緩和の維持は必要であるとしても、デフレのリスクが再燃しない限りは、無期限(open-ended)な資産買入れはコストと便益の点から正当化されないとの指摘や、資産買入れに付されたフォワードガイダンスは市場に無期限(openended)な資産買入れの思惑を生ずるとの懸念も示された。

インフレを巡る議論

政策理事会におけるこうした意見の相違は、副作用に関する認識の深刻さに起因するとともに、今回のAccountが示すように、今後のインフレに関する見方にも大きく依存している。

つまり、政策理事会メンバーは、ECBによる金融緩和の継続や景気の拡大、経済資源のslacknessの緩やかな吸収と賃金の上昇によって、基調的インフレが徐々に改善するとの基本的シナリオに概ね同意している。

一方で、景気の拡大に比べてインフレが弱いことへの懸念も共有しており、海外からの価格下落圧力や、労働のslacknessの残存、価格や賃金の調整における時間的ラグといった従来からの仮説に加えて、グローバルなslackness や消費におけるデジタリゼーション、労働市場の構造変化などによって、物価形成のプロセスが変化し、低インフレの長期化を招いている可能性が議論された。

今回のAccountが指摘しているように、この問題は先進国に共通している。ただ、ユーロ圏を米国と比べると、長期のインフレ期待が安定しているほか、この間のユーロ高に関わらず輸入物価の減速が限定的であったというポジティブな面がある一方、非金融法人や金融機関のバランスシート調整が顕著に遅延しているというネガティブな面もあり、より丁寧な議論が望まれる。

コミュニケーション政策

プラート理事は、今回の政策決定に関し、①景気は拡大しているがインフレは抑制的、②インフレ目標達成には金融緩和が必要、③資産買入れは減額するがフォワードガイダンスは維持、④政策金利のフォワードガイダンスも維持、⑤少なくとも資産買入れ期間は再投資も継続、⑥資産買入れ、資産保有のストック効果、再投資などが政策効果を発揮、といった点を強調すべきとした。

このような対外発信の調整はこれまでも行われてきたし、金融政策の「正常化」の第一歩では一段と重要である。しかし、今回のAccountが示唆するような意見の相違を考えると、今後は政策理事会メンバーによる講演や発言のトーンには、従来以上に様々な相違が目立つようになることが予想される。

Writer’s Profile

井上哲也

井上哲也Tetsuya Inoue

金融イノベーション研究部
主席研究員
専門:中央銀行、国際金融

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