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11月FOMCのMinutes-Unexpected weakness in inflation

2017年11月24日

はじめに

11月初に開催されたFOMCは、金融政策の現状維持を決めただけでなく、トランプ大統領による次期議長の指名が直後に予定されていただけに、市場からみても印象の薄い会合であった。しかし、公表されたMinutesは、景気が一段と強まっただけになおさら、インフレ率が高まらない点についてのFOMCメンバーの悩みが深まったことを示唆している。この点を中心に、今後の政策運営に対する意味合いを含めて検討したい。

金融経済情勢の判断

FOMCメンバーは景気の現状には自信を強めている(6ページ左段~7ページ右段)。つまり、個人消費の拡大は緩やかだが、所得や純資産が堅調に増加しているため安定感があり、設備投資は、高水準の企業収益や良好な金融環境、トランプ政権による経済政策への期待といった要素によって拡大を強めているとしている。この間、ハリケーンの影響も、執行部は8月に比べて9月は減衰したとしており、むしろ、住宅建材や自動車などの需要には、復興に伴うポジティブな効果が顕現化しつつあることが示唆されている。

この点は労働市場も同様であり、ハリケーンの影響によって非農業部門の雇用者数は一時的に不安定化したが、失業率は一段と低下し、労働参加率も上昇するなど、雇用は一段とタイト化したと評価している。

この間、金融システムに関しては、執行部が四半期報告を行ったが(5ページ右段第2パラグラフ)、全体として脆弱性はmoderateとの評価を維持した。つまり、資産価格のバリュエーションはやや上昇したが、非金融セクターのレバレッジはmoderateであり、金融機関による期間や流動性の変換に伴うリスクも低いとした。

FOMCメンバーによる議論(8ページ左段第2パラグラフ)でも、数名(several)がfinancial imbalanceの蓄積に懸念を示したが、資産価格の上昇は自然利子率の低下によって説明しうるとか、金融危機後の規制強化によって金融機関の頑健性が強化されているといった反論が示されている。また、執行部は、サーベイ結果を引用する形で、消費者ローンや商業用不動産ローンにおいて、銀行による与信姿勢がややタイト化したと報告している。

物価を巡る議論

冒頭に述べたように、今回のFOMCでも物価が焦点となった。まず、賃金(7ページ左段第4パラグラフ)については、雇用統計や雇用コスト指数でみると、足許で上昇率が若干高まった。しかし、執行部もハリケーンの影響で非熟練労働力の雇用機会が一時的に喪失したことによる面を示唆しているほか、FOMCメンバーからも、長い目で見れば加速しているとは言えないとの指摘がみられ、総じて上昇率は緩やかで生産性の上昇率とも整合的と総括した。

その上で、物価、特にコアインフレ率について、FOMCメンバーの多く(many)は、最近の停滞が一時的ないし個別的な要因による面が大きく、上記のような労働市場のタイト化が継続する限り、中期的にはインフレ率が徐々に加速するとの基本的見解を維持した。

しかし、興味深いことに、その記述の直後(7ページ右段第3パラグラフ)には、多く(many)のメンバーが、今後のインフレ率が予想より長期にわたって2%以下で推移する可能性が相応に存在するとの議論を行ったことが示されている。その背景については、数名(several)のメンバーが、①経済資源のutilizationに対するインフレの感応度の低下、②労働市場のタイトさに関する過大評価、③経済資源のutilizationに対するインフレの反応のラグ、といった仮説を提示した。さらに、少数(a few)のメンバーは、技術革新による既存のビジネスモデルの破壊といったpersistentな動きが、インフレの景気循環に沿った動きをoffsetするとの指摘も行った。

その上で、数名(several)のメンバーは、インフレ率が低位で推移していることが長期のインフレ期待を抑制するリスクに言及し、市場ベースや計量モデルによるインフレ期待が既に低下し始めている点を指摘した。さらに、実際のインフレ率が低位である中でFRBが利上げをしてきたことが、長期のインフレ期待を低下させたリスクも示唆した(8ページ左段第1パラグラフ)。

もちろん、こうした議論に対しては、他の数名(some other)のメンバーが反論し、本年入り後はインフレ期待を示す指標は安定しており、これらはインフレ率が2%に収斂する動きをサポートするとの見方を確認した。

金融政策の判断

今回のFOMCは金融政策の現状維持を決定した訳であるが、先行きについては様々な議論が行われている(8ページ左段第4パラグラフ以降)。

上記のように、FOMCメンバーは景気判断に自信を深めているが、GDPは9月のSEPに沿った推移になっているとし、その意味で緩やかな利上げの継続という基本方針を維持することに対するコンセンサスを維持した。

その上で、上にみた物価に関する議論を反映して、多くの(many)メンバーは、労働市場のタイト化に拘らずインフレ率が停滞している状況が、一時的ではない要因による可能性を指摘した。また、これらのメンバーの多くは、経済資源のutilizationとインフレ率との乖離や自然利子率の低下などを考慮すると、長期インフレ期待の低下によって、FRBが金融政策を通じてインフレ率を2%に回帰させることは困難になるとの見方を示した。なお、この点に関しては、2名(a couple of)のメンバーが金融政策の枠組みを変えることを議論し、その中で物価水準目標の可能性を取り上げたようだ(9ページ左段第2パラグラフ)。

これに対して他の数名(some other)のメンバーは、労働市場が既に完全雇用状態にあり、しかもfinancial conditionが極めて緩和的である下では、インフレ率にむしろ上方リスクがあることを指摘した。そして、金融緩和の解除を過度に緩やかにすれば、維持可能な雇用水準を大きくオーバーシュートさせたり、金融システム安定に対するリスクを高めるといった問題を招くと主張した。

金融政策のコミュニケーション

このように、今回のMinutesを読む限り、物価に関する構造論の影響力が強まっていることが示唆される。こうした特徴は7月FOMCで顕著になったが、これだけ毎回続くと、単に長期的な視点での議論と片付けて良いのかどうか再考する必要があろう。

同時に、今回のMinuteも認めているように、9月のSEPやdot chart の時点では、市場はむしろFOMC の姿勢を「less accommodative」と受け止めた面があった。次回(12月)のFOMCでこの点の修正が生ずるかどうかもポイントとなりそうだ。

Writer’s Profile

井上哲也

井上哲也Tetsuya Inoue

金融イノベーション研究部
主席研究員
専門:中央銀行、国際金融

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