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サウジ情勢と地政学リスクを静観する金融市場

2017年11月22日

サウジ情勢に金融市場は警戒感

緊迫するサウジの政治情勢を反映して、同国の金融市場も不安定性を徐々に強めている。今月4日以降、汚職摘発を理由に王子や現役閣僚、実業家など200人超が一斉に拘束された。これはムハンマド皇太子が王位継承を視野に強硬手段に踏み切ったとの見方が一般的である。さらに国内の混乱に乗じて、イランがサウジアラビアに対抗する動きを強めており、この2点がグローバル金融市場での警戒ムードを煽っている。

サウジ情勢が緊迫の度合いを強めて以降、サウジ30年国債(ドル建て)利回りは、米国財務省証券30年利回りとの格差が、1.6%程度から1.9%程度へと上昇し、また債券のデフォルト(債務不履行)のリスクを取引するCDS(クレジット・デフォルト・スワップ)市場で、サウジの保証料率(5年)は以前の0.8%程度から一時1.0%程度へと上昇した(注1)。

悪影響はむしろ周辺国に

しかし、サウジの金融市場が大きく混乱した状態に至ったとまではなお言えない。国内政治情勢や対イラク関係が緊迫している程には、動揺は広まっていないとも言えるだろう。

むしろ混乱の度を増しているのは、バーレーン、オマーン、レバノン、カタール等の周辺国である(注2)。バーレーン、オマーン、レバノンでは、国債利回りの上昇がより顕著であるが、その背景には、バーレーンのドルペッグ制崩壊と通貨下落のリスクが一定程度織り込まれていることもある。

今回のサウジ問題が、周辺国がそれぞれ抱えている脆弱性を浮かび上がらせる触媒の役割を果たしたことも、そうした背景にあるとみられる。例えばバーレーンは、外貨準備が少ないことから、原油価格の下落による対外収支の悪化がドルペッグ制廃止観測につながりやすい。またカタールは、過激派組織を支援したとして、孤立している。

サウジの経済改革への期待

相対的には問題の震源地であるサウジ金融市場の混乱度合いが、周辺国よりもむしろ小さいのは、国家歳入の大半を占めるサウジの石油産業が無傷であることに加えて、国家機関やファンドが市場に介入しているためとの指摘もある。しかしそれだけではなく、経済改革を担うムハンマド皇太子への権力集中が進めば、それは国家資産の民営化や海外投資家への市場開放といった経済改革が一段と進むとの期待が、金融市場にあるためでもあろう。

こうした楽観論が果たして妥当であるかどうかは、今後の動向で次第に明らかになっていくであろうが、北朝鮮問題など深刻に見える地政学リスクが、グローバル金融市場に深刻な悪影響を与えず、楽観的なムードが維持されるという2018年の金融市場の特徴を体現しているイベントの一つが、このサウジ情勢と言えるだろう。


(注1)「サウジ、投資家が警戒感」、日本経済新聞、2017年11月21日
(注2)「サウジの政治混乱、被害者は周辺国市場」ダウジ・ジョーンズ、2017年11月21日

Writer’s Profile

木内登英Takahide Kiuchi

金融ITイノベーション事業本部
エグゼクティブ・エコノミスト
専門:内外経済・金融

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