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第19回党大会で確認された金融リスク防止

2017年11月13日

金融リスクの所在と原因

中国共産党第19回全国代表大会(「十九大」、2017年10月18日~24日開催)の習近平総書記の報告における金融分野についての言及は以下の通りである。「金融体制改革を深化させ、金融が実体経済に貢献する能力を増強し、直接金融の比率を引き上げ、多層的な資本市場の健全な発展を促進する。金融政策とマクロプルーデンス政策の二本柱による調整コントロールの枠組みを完備し、金利と為替レートの自由化改革を深化させる。金融監督システムを完備して、システム性の金融リスクを発生させないとのボトムラインを守る」。

これについての周小川人民銀行総裁の説明(「十九大報告の指導読本」摘要、11月4日発表)は、具体的な金融リスクとして、企業部門の高い負債比率(対GDP比2016年末で165%)、ゾンビ企業の退出遅れ、地方政府の隠れ債務増加、金融機関・債券市場の信用リスク増加、市場・業態を跨ぐシャドーバンキングや違法犯罪、金融持株会社発展の中で事業会社が金融機関の株主になることによるインサイダー取引等の弊害、一部のインターネット金融のポンジースキーム化、金融機関による監督管理部門幹部の買収等を列挙している。

そして、これらリスクのより本質的な原因として、マクロ経済的には、市場参加者のプロシクリカルな行動による金融リスクの累積、監督管理面では、新たな業態や商品に対応できない業態別縦割りの監督管理体制を挙げ、また金融機関の統治の問題や金融部門の開放不足と競争不足も挙げている。

リスクへの対応

これらのリスクへの対応は、同じく周総裁の説明を見ると、基本的に7月の全国金融工作会議で述べられた4つの原則と同じである(本コラム7月18日「第五回全国金融工作会議について」参照)。具体的には、①金融の本源回帰と経済社会の発展への貢献、②金融構造の最適化と金融市場・金融機関・金融商品体系の改善、③監督管理の強化と、金融リスクの防止・解消の能力の引き上げ、④金融資源配分における市場による決定的な役割の発揮である。

①については、(規制回避や鞘取りなどを目的とした)同業者(金融機関間)取引の抑制がある一方、積極的な面では特に金融包摂、科学技術、グリーン金融が重視される。②について見ると、中国では直接金融の比率が低く、企業の借入れ・債務の比重が高くなってしまうために企業部門のレバレッジ率が高いことが指摘される。多層的な資本市場の発展に加えて、debt equity swap(債転股)などの利用が考えられている。

③については、第一に、金融政策による総量のコントロールとマクロプルーデンス政策により、カウンターシクリカルな政策措置を導入することがある。第二は、国務院金融発展委員会の設立である。シャドーバンキングやインターネット金融は、従来の業態別縦割り規制では対応しきれていないため、金融商品・サービスの機能に基づいた統一的な規制をかけることが急務である。また、金融商品・サービスの総合的な統計の作成といった金融インフラの整備も進められることになる。なお、共産党中央と国務院の批准を経て、国務院金融安定発展委員会が最近成立し、第一回の全体会議が開かれたと報道されている(11月8日各種報道)。

規制面の動きについて、銀行業監督管理委員会の郭主席は、今年の金融リスク防止措置について「同業」・「理財」(資産運用)・「オフバランス」を重点領域にしていると発言した(10月19日記者会見)。これらの3領域は、シャドーバンキング・不動産バブル・地方政府債務等の突出したリスクをカバーしているためと説明されている。

そして、今春以降の検査と是正策、法律や規定とその執行の厳格化の効果が以下のように現われていると発言した。▽同業資産負債の規模は年初から2兆元強減少、▽銀行の理財の増勢鈍化、具体的には同業理財のネットでの減少、委託貸出の伸び鈍化など。また、商業銀行の自己検査の結果、完全な統計ではないが、商業銀行28行における今年の内部問責はのべ5.8万人に上る。

④については、貿易・投資の対外開放、人民元レート形成メカニズム改革の深化、外為管理の減少・人民元国際化の推進、秩序だった資本項目の自由化が挙げられている。ただし、周小川総裁は為替レート形成について、人民元の変動幅拡大は、当面の重要事でないと述べた(10月19日記者発表)。為替変動幅の拡大は、開放拡大のシグナルを出すことになるとも述べていることから、足元は開放のシグナルを出すべき時ではないと判断していると見られる。

近年の人民元の為替レート形成メカニズムの改革は、毎取引日の中間値(対米ドル)の決定方法の変更と中間値上下の変動幅の拡大に分けて考えられるが、前者については、今年5月に、これまでの「前日終値」と「バスケット通貨の変化」により決定する方法から、さらに「カウンターシクリカル(反景気循環)要因」も考慮して決定する方法に変わっている。「カウンターシクリカル要因」は、市場が一定方向に行き過ぎてしまうプロシクリカルな動きを修正するために導入されたが、市場では中間値の決定がむしろ恣意的になったと受け止める向きもある。後者の変動幅拡大も足元では重視されていないことと合わせて考えると、短期的には、為替レート形成メカニズム改革のスピードは遅くなったと見られる。

Writer’s Profile

神宮健

神宮健Takeshi Jingu

NRI北京
金融システム研究部長
専門:中国経済・金融資本市場

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