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米国の貯蓄率低下は心配すべきか?

2017年11月07日

米国個人貯蓄率低下は景気後退が近いことを示唆?

米国では個人貯蓄率が大幅に低下している。最新2017年9月の水準は3.1%であり、2007年12月以来の低水準となっている。ちなみにこの2007年12月は、前回の景気後退局面の直前であった。また3.1%は、直近のピークであった2015年10月の6.3%の半分以下の水準である。

個人貯蓄率が4%を下回るのは、これで7カ月連続となる。過去に個人貯蓄率が4%を継続的に下回ったのは、90年代末と2000年代半ば(2005年~2009年)であり、それはともに景気回復期の終盤と重なっていた。

このように過去の経験に照らすと、足もとでの個人貯蓄率の低下は、消費者が過度に楽観的になって所得増加率以上のペースで個人消費を増加させ、その過程で債務拡大など、不均衡が累積されていることの表れであるようにも見える。また、それは景気が近い将来に後退局面入りする兆候であるようにも見えるのである。

株価上昇が個人貯蓄率低下の背景

一般に、個人貯蓄率が低下しているということは、個人消費の増加率が可処分所得の増加率を上回っていることを意味する。ただし個人消費は、現時点での所得環境だけではなく、将来の所得の見通しによっても影響を受けることから、先行き所得の増加率が高まっていくという期待が強まる局面では、個人貯蓄率は低下しやすい。しかし、最新10月分の雇用統計を見ても、足もとで賃金の増加率には変化の兆しは確認できない。

他方で、家計の純資産額(資産額-負債額)が増加する際には、将来、個人消費に回すことができる資産が増加することから、個人貯蓄率は低下しやすい。実際、米国の家計純資産は昨年以来増加ペースを高めており、2017年第2四半期にGDP比で500%に達している。これは2000年代半ばの前回のピーク水準を既に上回っている。

そして、家計の純資産額を増加させているのが、株価上昇なのである。つまり、株価上昇の資産効果が、個人消費を刺激し個人貯蓄率を押し下げている主因であると言える。

米国経済は株価に大きく左右される

既に述べた通り、個人貯蓄率は7カ月連続で4%の水準を下回っているが、2000年代半ばには、実は40カ月連続で4%の水準を下回っていた。他方で、家計の純資産額のGDP比は2000年代半ばの水準を既に上回っていることを考えると、現在の個人貯蓄率の水準が持続可能でない、と判断することはできないだろう。

しかし、現在の米国の個人消費の堅調が、株価上昇の影響を強く受けていることは間違いない。個人消費が株価の変動に対して高い感応度を持っているということは、先行き株価が下落に転じる際には、米国経済が相応に打撃を受ける可能性が高いということを意味しよう。さらに株価下落で個人消費が慎重になれば、年初来のPCE(個人消費)デフレータ上昇率の下振れ傾向が、なお持続するとの見通しがより強まることになろう。これは、FRB(米連邦準備制度理事会)の利上げ策をより慎重にさせることになろう。

こうした点から、今後の株価動向は、米国の景気動向、金融政策、金融市場の方向性に幅広く大きな影響を与えることになろう。

Writer’s Profile

木内登英Takahide Kiuchi

金融ITイノベーション事業本部
エグゼクティブ・エコノミスト
専門:内外経済・金融

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