1. HOME
  2. ナレッジ&インサイト
  3. 研究員の時事解説
  4. 井上哲也のReview on Central Banking
  5. 10月のFOMC-Solid economy with so…

10月のFOMC-Solid economy with soft inflation

2017年11月02日

はじめに

今回のFOMCは事前の予想通りに金融政策の現状維持を決定した。しかも、今回は議長の記者会見がないだけでなく、市場の関心も、むしろ間近に迫っているとみられる次期議長の指名の方に集まっている。

それでも、FOMCメンバーの多くが示唆する次回(12月)での利上げだけでなく、その後の政策運営を考える上で、今後に公表される議事要旨も含め、議論の内容に注目しておくことは重要である。

景気と物価の判断

今回のFOMCの声明文は景気判断をさらに上方修正した。具体的には、前回(9月) が「年初来、経済活動は緩やか(moderately)に拡大してきた」との表現であったのに対し、今回は「経済活動は堅調な(solid)ペースで拡大してきた」となった。

この点は、シンプルには実質GDP成長率の年初来の推移をみれば分かりやすい。つまり、第1四半期は年率+1.2%と低調なスタートとなったが、その後は+3.1%→+3.0%と堅調に拡大した。もちろん、第3四半期については、第1四半期と逆に、民間在庫投資がプラスに大きく寄与している点に留意する必要があろうが、それを除いても潜在成長率を上回ることには違いがない。

主要な内需の項目に対するFOMCの評価は前回と変わっていない。具体的には、家計の消費支出が緩やかに拡大し、民間の設備投資が拡大を続けているとの表現を維持している。

この間には、大型のハリケーンが複数上陸し、テキサスやフロリダといった経済的にも重要な地域に影響を与え、例えば、今回の声明文が指摘しているように9月の雇用にも反映した。しかし、米国経済が基調的には堅調さを維持していることは上記のGDPを含む様々な経済統計から確認されており、その点では前回(9月)のFOMCの時点でハリケーンの影響を重視しないとしたFOMCの判断は結果的に正しかった訳である。

今回の声明文も、ハリケーン関連の被害と復興の双方が、経済活動や雇用、物価に対して短期的には影響を与えることを認めつつも、過去の経験に照らせば、中期的に米国経済の先行きを大きく変えることは考え難いとの見方を踏襲している。

もっとも、物価に関しては、今回のFOMC声明文もコアインフレ率が引続き軟調(soft)であると表現している。つまり、ハリケーンの影響(石油精製活動の停止)によってガソリン価格が上昇し、9月の総合インフレ率(PCE)は+1.6%と前月(+1.4%)からやや加速しているが、コアインフレ率は+1.3%と前月から横這いであるだけでなく、初夏以降に緩やかに減速しているようにも見える。

金融政策の運営

今回の声明文には次回(12月)のFOMCにおける利上げに関する直接的な言及はみられない。それでも、上記のように米国経済の基調がむしろ強まっていることを示唆しているだけに、米国のメディアは、次回利上げが既定路線であることを確認したとの見方を揃って示している。

加えて、この間には多くのFRB幹部が次回の利上げを示唆してきた。イエレン議長自身も次回(12月)の利上げに直接言及するわけではなくても、景気の拡大は緩やかな利上げという現在の戦略を正当化するとの見方を示している。前回(9月)のdot chartが示すように、こうした見方はFOMC内の多数を占めているのであろうし、従ってメディアによる上記の理解ももっともである。

もっとも、過去2回(7月と9月)の議事要旨が明示するように、FOMC内でもインフレ率がなかなか加速しないことに関する議論も活発化しているとみられる。

つまり、経済が足許で潜在成長率を上回るペースで拡大し、米国のGDPギャップも縮小を続けているとみられるほか、9月の雇用統計はハリケーンの影響による雇用者の動きが注目された中で、実は失業率の一段の低下(2001年以来の4.2%)を示していた訳である。それでも、上記のようにPCEインフレ率はむしろ緩やかに低下しているとすれば、イエレン議長の言うインフレ率に関する「mystery」は一層深まっていることになる。

本コラムでもかつて取り上げたように、過去2回のFOMC議事要旨は、この問題に関して、特に雇用と賃金の関係に焦点を当てた議論が行われたことを示唆している。しかも、失業率が低下しても賃金が上昇しない現象について、構造的な要因の可能性を示唆する議論が目立つ。

具体的には、賃金設定に関するbackwardな要素の影響、自然失業率の低下、グローバル化やIT化による企業の価格決定力の低下(収益を通じて賃金設定に影響)といった、日本人にも馴染み深い仮説である。

もちろん、こうした構造要因が下方圧力を与えても-つまり、かつてグリーンスパン議長が使った表現を引用すれば「逆風」の下でも-力強い景気拡大の下で賃金と物価が徐々に改善していくというように循環論と構造論との折り合いをつけることも可能ではあり、それが緩やかな利上げの継続という現在のFOMCで支配的な考え方に繋がっているのであろう。

それでも、これらの議事要旨が示唆するように、こうした構造的な下方圧力も景気が拡大すれば消滅するであろうという楽観論は、インフレがここまで粘着的であるという事実の前に説得力を失っている印象を受ける。つまり、長期的にはPhilips curveにもフラットではない領域もあるのだろうが、そこに至るにはなお時間を要するということである。

新議長による政策運営

こうした議論を踏まえれば、トランプ大統領が誰をFRB議長に選任したとしても、FOMCが米国経済の実情を踏まえて金融政策を運営する限り、結果的にはトランプ大統領の望む緩和的な金融環境が維持されるという推論が導かれる。この点は、金融市場にとっては、多少退屈かもしれないがgood newsではあろう。

また、次回(12月)のFOMCは政策決定としては利上げとなろうが、こうした議論を踏まえると、来年中の利上げ戦略に関する議論やコミュニケーションがむしろ注目される。

市場が依然として年3回の利上げには納得しない中、循環論と構造論とのバランスにどのような変化がみられか。加えて、イエレン議長の下で、新議長に選任された人物が次回の時点ではFOMCメンバーであることを前提とした場合、政策判断にどのような形で影響を及ぼすか。様々なポイントに注目したい。

Writer’s Profile

井上哲也

井上哲也Tetsuya Inoue

金融ITイノベーション研究部
部長
専門:中央銀行、国際金融

この執筆者の他の記事

井上哲也の他の記事一覧

注目ワード : 異次元緩和

注目ワード : ETF

このページを見た人はこんなページも見ています