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詳細が示されたフェア・ディスクロージャー・ルール

2017年10月26日

2017年10月24日、金融庁が2017年5月に成立した金融商品取引法(以下「金商法」)改正に伴って導入されることとなるフェア・ディスクロージャー・ルール(以下「FDルール」)の詳細を定める政令改正、新設される「重要情報の公表に関する内閣府令」(以下「重要情報府令」)及びガイドライン(以下「FDガイドライン」)の案を公表した(注1)。11月22日までこれらに対するパブリックコメントを募集し、所要の修正を経て、2018年4月1日から施行されることとなる予定である。

FDルールをめぐっては、「重要情報」、すなわち規制の対象となる情報の範囲が大きな関心を呼んできた。改正金商法は、重要情報とは「上場会社等の運営、業務又は財産に関する公表されていない重要な情報であって、投資者の投資判断に重要な影響を及ぼすもの」だとするが(金商法27条の36第1項)、今回のFDガイドラインでは、その具体的な範囲について次のような考え方を示している(FDガイドライン問2)。

・重要情報として上場会社等が最低限管理すべき情報は、当面、①インサイダー取引規制の対象となる情報、及び②決算情報(年度または四半期の決算に係る確定的な財務情報)であって、有価証券の価額に重要な影響を与える情報、の二つである。
・決算情報のうち何が有価証券の価額に重要な影響を与えるのか判断が難しい企業は、上の①に加えて、公表前の確定的な決算情報を全てFDルールの対象として管理する。
・諸外国のルールも念頭に、何が有価証券の価額に重要な影響を及ぼし得る情報か独自の基準を設けてIR実務を行っているグローバル企業は、その基準を用いて情報を管理する。


また、証券会社のアナリストや機関投資家のファンドマネジャー、アナリスト向けの企業説明会等で、企業の将来に関する見通しをめぐって多くのやり取りが行われることを念頭に置きつつ、次のような考え方も示されている(FDガイドライン問4)。

・中長期的な企業戦略・計画等に関する経営者との議論の中で交わされる情報は、一般的にはそれ自体でFDルールの規制対象となる重要情報には該当しないが、例えば、中期経営計画の内容として公表を予定している営業利益・純利益に関する具体的な計画内容などが、それ自体として投資判断に活用できるような場合であって、その計画内容を公表直前に伝達するような場合は、当該情報の伝達が重要情報の伝達に該当する可能性がある。
・既に公表した情報の詳細な内訳や補足説明、公表済みの業績予想の前提となった経済の動向の見込みは、一般的にはそれ自体でFDルールの規制対象となる重要情報には該当しないが、例えば、契約済みの為替予約レートの数値のような、その後の実体経済の数値と比較することで容易に今後の企業の業績変化が予測できる情報が含まれる場合には、当該情報が重要情報に該当する可能性がある。
・工場見学や事業別説明会で一般に提供されるような情報など、他の情報と組み合わせることで投資判断に活用できるものの、その情報のみでは、直ちに投資判断に影響を及ぼすとはいえない情報(いわゆる「モザイク情報」)は、それ自体では重要情報に該当しない。


ここでは今後公表される確定的な決算数値がFDルールによる規制の対象となる重要情報の核心とも言うべきものであり、その内容を間接的に示唆するような情報も重要情報に該当するという考え方が示されていると言うことができるだろう。

FDルールによる規制の対象となる情報伝達は、上場会社等やその役員などが、「取引関係者」に情報を伝達した場合に限られる。取引関係者は、①金融商品取引業者(証券会社)など内閣府令で定める法人やそれらの役員等、②「投資者に対する広報に係る業務に関して重要情報の伝達を受け、当該重要情報に基づく投資判断に基づいて当該上場会社等の上場有価証券等に係る売買等を行う蓋然性の高い者として内閣府令で定める者」という二つのカテゴリーのいずれかに該当する者を指す。

この点をめぐって、新設される重要情報府令では、株式や社債の保有者、適格機関投資家、有価証券に対する投資を行うことを主たる目的とする法人その他の団体、投資家向けミーティングへの出席者が、第二のカテゴリーに該当して規制の対象となることが明らかにされた(重要情報府令7条)。但し、上場会社等が他の会社の子会社である場合、企業グループの経営管理のために株主である親会社に重要情報を伝達する場合があるが、こうした情報伝達は、「投資者に対する広報に係る業務に関して」行われるものではないので、FDルールによる規制の対象とはならない(FDガイドライン問6)。

なお、証券会社の投資銀行業務を行う部門への未公表の重要情報の伝達や信用格付業者に債券等の格付を依頼する際の重要情報の伝達については、法令によって秘密漏洩防止など情報管理の義務が定められていること等から、FDルールに基づく公表義務の対象とはならないものとされる(FDガイドライン問7)。

FDルールの基本的な考え方は、未公表の重要情報を取引関係者に伝達する場合には、同時に当該情報を公表することを求めるというものである。但し、FDルールに関する金商法の規定は、①伝達した情報が重要情報に該当することを知らなかった場合、②重要情報の伝達と同時にこれを公表することが困難な場合として内閣府令で定める場合、については、同時公表は必要ではなく、当該伝達が行われたことを知った後、「速やかに」公表すれば足りるものとしている(金商法27条の36第2項)。

上の②に該当する場合とは、次のいずれかに該当する場合である(重要情報府令8条)。

・上場会社等の役員等が、取引関係者に意図せず重要情報を伝達した場合
・上場会社等の役員等が、伝達の相手方が取引関係者であることを知らなかった場合


上の意図しない伝達に近いケースとして、機関投資家など取引関係者に伝達した情報について、事後的に重要情報に該当するのではないかとの指摘を受けた場合、どのように対応すべきかが問題となり得る。この点について、ガイドライン案では、上場会社等と情報の伝達を受けた機関投資家等が対話をした上で、①当該情報を速やかに公表する、②両者の対話の結果、重要情報に該当しないとの結論に至った場合公表しない、③情報の伝達を受けた機関投資家等に守秘義務及び当該上場会社等の有価証券を売買しない義務を負ってもらった上で公表は行わない、という三つの対応が考えられるとしている(FDガイドライン問3)。

これは、FDルールによる規制が、原則として守秘義務及び関係する有価証券を売買しない義務を負っている相手方への情報伝達には及ばないとされるためであり、そうした守秘義務などを負うことを情報伝達後に合意した場合であっても、情報の公表を強いられることはないということが分かるだろう。

なお、FDルールに対応するための「公表」の方法について、重要情報府令では、①臨時報告書の提出、②2以上の報道機関に対して情報を公開してから12時間が経過した場合、③取引所の適時開示システム(TDNet)への通知、というインサイダー取引規制上「公表」とされる場合に加えて、④「上場会社等がそのウェブサイトに重要情報を掲載する方法」も「公表」に該当するとしている(重要情報府令10条)。ただし、④については、①ウェブサイトに掲載された重要情報が集約されている、②掲載時から少なくとも1年以上投資者が無償でかつ容易に重要情報を閲覧することができるようにされている、という二つの要件を満たす場合に限るものとされる。

今回公表されたFDルールの詳細は、全体として穏当なものであり、上場企業と機関投資家との建設的な対話(エンゲージメント)を阻害するといったネガティブな影響につながる可能性は高くないと言うことができよう。とりわけインサイダー取引規制上の重要事実に直ちに該当するとは言えない情報のうち、未公表の確定的な決算情報以外の情報が、幅広く規制の対象となることはないことが明らかになったことの意義は大きい。

もっとも、為替予約レートの例からも分かるように、それ自体としては決算情報とは言えないものであっても、容易に決算情報の変化を予測できるような数値が重要情報となり得る点には注意が必要であろう。但し、そうした数値をこれまでアナリスト等に提供していた上場企業は、単にそうした情報の提供を止めるのではなく、ホームページに掲載することで公表情報とするという対応を講じて欲しいものである。


(注1)http://www.fsa.go.jp/news/29/syouken/20171024.html#1

Writer’s Profile

大崎貞和

大崎貞和Sadakazu Osaki

未来創発センター
主席研究員
専門:証券市場論

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