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9月FOMCのMinutes-Some patience

2017年10月12日

はじめに

今回(9月)のFOMCはバランスシート縮小の開始を決定したが、Minutesが示すように市場は十分に織り込んでいただけに円滑に受け入れられた訳である。従って、Minutesの注目点は今後の利上げとなる。この点を中心に議論の内容を検討したい。

金融経済情勢の評価

今回(9月)のFOMCはSEPの定例見直しにあたるが、Minutesによれば、スタッフの報告もFOMCメンバーの議論も、一連のハリケーンによる影響の評価に多くを費やしたことが推察される。

結論としては、イエレン議長がFOMC直後の記者会見で説明したように、生産活動や雇用の面で第3四半期にマイナスの影響が生ずるが、第4四半期の回復により、均してみれば影響は少ないとの結論が共有された。個人消費でウエイトの大きい自動車販売も被災地の更新需要によって下支えされるとされた。このようにハリケーンの影響を詳細に議論したのは、被災地にテキサスやフロリダといった経済圏が含まれるためだけではなく、年内利上げに向けて経済環境を確認する必要があったためであろう。

従って、SEPのうち景気については、基本的なシナリオは前回(6月)と概ね不変と整理している。実際、足許の米国経済は、ハリケーンの影響を除くと前回(6月)に予想したパスに比べ若干上振れしているが、概ね想定通りとの評価が目立つ。Minutesで公表されたFOMCメンバーによる実質GDP成長率に関する予想の分布も、前回(6月)に比べて微妙な変化に止まった訳である。

賃金と物価を巡る議論

一方、賃金や物価に関しては、FOMCメンバーの間で意見の相違が目立つ(8ページ右段~9ページ左段)。 賃金については、マクロ的にみて上昇が抑制されている事実を確認し、数名の(several)メンバーから、実際の長期失業率がより低い可能性が示された。また、生産性上昇率の鈍化や、労働力の構成変化、企業における価格競争の激化といった構造的要因が作用している可能性が指摘された。こうした構造論は7月FOMCと同様である。

これに対し、いくつか(several)の地区からは、労働不足に直面した企業が賃金の大幅な引上げに動いたことが報告された。実際、スタッフによる説明でも、ECIやAHEでみた報酬や賃金が足許で前年比2.5%程度上昇していることを確認しており、二名(a couple of)のメンバーからは雇用のタイト化による賃金上昇の広範な加速が既に開始している可能性が提起された。

これらの議論の結果、FOMCメンバーの多く(many)は、労働市場が強まるに連れて、賃金も時間をかけて上昇するとの従来のシナリオを維持することに同意した。そして、こうしたシナリオを維持する以上、物価についても同様な結論が得られることになる。

実際、雇用のタイト化とともに、経済が潜在成長率を上回るペースで推移し続ける以上、中期的にはインフレが加速するとの見方が多くの(many)メンバーによって確認された。同時に、足許でインフレ率を減速させた要因の多くは一時的との理解が示された。

もっとも、こうしたインフレ率の下押し要因のうち、政府のヘルスケアプログラムの改訂による影響は継続する可能性が指摘されたほか、数名の(some)メンバーからは、技術革新による企業のpricing行動の変化といった構造的な物価の下押し要因はむしろ強まっているとの理解が示された。さらに、低インフレが他の先進国にも共通にみられる点を捉えて、グローバルに共通な要因が米国と他の先進国における目標以下のインフレ率の定着を招いているとの指摘もなされた。

低インフレによる政策運営への意味合いにも意見の相違がみられる(9ページ左段~右段)。数名の(several)メンバーからは、インフレ率が低位で推移することは、基調的インフレ率が2%以下である可能性を示唆し、インフレ期待の低下を招くリスクがあるとの指摘がなされた。また、こうした下では、金融政策もインフレ目標への信認の毀損を防ぐべきであるほか、結果的に政策金利が事実上の下限に近い水準で推移するとの見方が示された。

これに対しては、数名の(a few others)のメンバーからは、経済資源のutilizationのタイト化からインフレへの波及に時間的ラグがあるとして、労働市場のタイト化に伴うインフレ加速のリスクは高いとの反論が示された。結果的にFOMCメンバーは、インフレ率が中期的には2%目標付近で安定するとの判断に全会一致で同意したが、数名の(several)メンバーからは、こうした収斂のプロセスがより長期化した可能性も指摘された。

興味深いことに、こうした意見の相違はfinancial conditionの評価にも波及しており、二名の(a couple of)メンバーから高度に緩和的な金融環境の継続が金融安定に対するリスクを招くことが指摘された一方、数名の(afew)メンバーからは、金融環境の緩和が長期経済見通しの慎重化ないし中立金利の低下によるものであれば、景気の過熱を招くリスクは少ないとの反論が示された。

政策金利に関する議論

今回(9月)のFOMCは政策金利を据え置いた一方、殆どすべての(nearlyall)メンバーは漸進的な利上げの維持に同意した。

それでも、多くの(many)メンバーからは、低インフレが一時的要因だけでなく継続的な要因によるとの懸念が示され、金融緩和の会場には幾分かの忍耐(some patience)が必要との見方が示された。そのうちの数名(afew)からは、当面は利上げの理由に乏しいとか、利上げペースはさらに緩やかになるといった理解が示された。もちろん、これらには反論も示され、数名の(several)メンバーからは、完全雇用状態にある労働市場に起因するインフレ加速のリスクが指摘された。

その上で、多くの(many)メンバーからは、中期の経済見通しが維持される限り、年内の利上げに向けた条件が整う可能性が高いとの見方を示された。もっとも、他の数名の(several others)メンバーからは、利上げ判断は、今後の経済指標によってインフレ目標に向けた動きに対する自信が高まるかどうかに依存するとの考え方が示された。また、数名の(afew)メンバーからは、本年入り後の低インフレが継続しないとの見通しを確認しうるまで利上げを延期すべきとの考えが示された。

今回(9月)のMinutesに示された議論は、FOMC直後のYellen議長による会見に比べて、インフレに対して慎重な見方が目立つ。なぜか年内の利上げにはコンセンサスが窺われるが、その後の利上げペースに少なからぬ示唆を持ちうる議論であった。

Writer’s Profile

井上哲也

井上哲也Tetsuya Inoue

金融ITイノベーション研究部
部長
専門:中央銀行、国際金融

注目ワード : アベノミクス

注目ワード : 異次元緩和

注目ワード : インフレ目標

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