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金融政策とポピュリズム的傾向

2017年10月12日

経済政策でポピュリズム的傾向か

10月22日に実施される今回の衆院選挙は、経済政策面でポピュリズム的な傾向が強いのが特徴、と指摘する向きが少なくない。経済政策での最大の焦点は、2019年10月に予定されている消費税率10%への引き上げの是非であるが、野党勢力は消費税率引き上げに反対している。

他方与党は、予定通りの消費税率引き上げを主張する一方、税収増加分の使途を見直し、教育無償化などにより多く振り向けることで、増税に対する国民の理解を得やすくしているようにも見える。また過去2回の消費税率引き上げ延期の経験から、「リーマンショック並み」は言うに及ばず、通常の景気後退時であっても、消費税率引き上げは再度延期されるのではないかという観測が、国民の間で消費税率引き上げの公約に対する抵抗感を減じている側面もあるかもしれない。

金融政策は大きな争点にならず

他方、金融政策については、各党ともに積極的に争点とすることを避けているように見える。自民党の選挙公約には、金融政策についての記述はない。立憲民主党の公約でも、金融政策には言及されていない。他方、希望の党は、「日銀の大規模金融緩和は当面維持した上、円滑な出口戦略を政府日銀一体となって模索する」と、やや曖昧な主張をその公約で示している。唯一、「異次元緩和を転換」と、明確な政策変更を主張しているのが、共産党である。

今回の衆院選挙は、安倍政権下での経済政策、つまり5年近くに及ぶ「アベノミックス」の総括評価が焦点の一つとされているにもかかわらず、その中核と一般には見なされてきた金融政策を争点とすることが、なぜか回避されているのである。その背後には、金融政策に対する国民の評価が複雑であり、金融政策を争点に掲げて有権者の支持を得る戦略をとることが難しくなっていることがあろう。

自民党が政権を奪回した2012年末の衆院選挙では、インフレ目標と積極的な緩和を通じてデフレを克服するとの主張が、有権者の支持を相応に得たように見えた。当時は、日本銀行に積極的な金融緩和を実施させるとの主張が、ポピュリズム的な選挙戦略として極めて有効だったのだろう。

しかしその後、①異例の金融緩和が長期化するなかでも、物価上昇率は2%の目標に遠く及ばず、金融政策の効果に対して懐疑的な見方が有権者の間で高まった、②物価上昇率が高まることの弊害も相応に認識された、③金融緩和の副作用、出口の難しさなどが漠然と意識された、なかで、選挙戦略における金融政策の扱いは難しくなっていったのである。既に見た、金融政策に対する希望の党の公約は、「長期化する金融緩和がもたらす副作用に対する不安から、出口を期待する一方、出口での金融市場の混乱なども不安に思う」、という有権者の複雑な心理に応えたもの、との解釈もできるだろう。

金融政策とポピュリズム

このように今回の選挙では、金融政策はポピュリズム的な選挙戦略には巻き込まれていないが、一般に金融政策に対する政党あるいは政府の主張は、そうした戦略の影響を受けやすい点には留意しておきたい。

財政政策など他の経済政策と比較して、金融政策の副作用、コストについては、一般には十分に理解されにくい面がある。財政政策による景気刺激策の場合には、歳出増加策にせよ減税策にせよ、それを賄う財源が必要であり、その分他の歳出を抑制する、あるいは増収策を実施する必要があるため、そのコストは見えやすく、理解されやすい。反面、金融政策のコストは概して理解されにくいことから、財政面からの景気対策に限界が意識されるような局面では、金融緩和策に安易に頼る傾向が政府内あるいは国民の間で高まりやすいのである。

今回の選挙で金融政策が大きな争点とされない理由の一つは、現在、景気情勢が良好であることだろう。しかしひとたび景気情勢が悪化すれば、政府は財政出動を通じた景気対策を講じ、その際には追加的な金融緩和策を期待する可能性は十分に考えられるところである。景気情勢次第では、金融政策が再びポピュリズム的な選挙戦略あるいは国民へのアピール戦略に組み込まれる可能性は十分に残されているのである。

Writer’s Profile

木内登英Takahide Kiuchi

エグゼクティブ・エコノミスト

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