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資金取引における国債の重要性

2017年10月11日

国債市場の流動性低下、不安定化は資金取引全体を停滞させるリスク

国内金融機関の各種資金取引には、国債が主要な担保として利用されている。金融機関が日本銀行に差し入れている担保のうち国債が占める比率は、2016年度平均で約45%(担保価額ベース)である。また、債券レポ取引においては実に9割強と、そのほとんどが、国債が取引される国債レポ取引となっている(注1)。

こうしたもと、日本銀行が大量の国債を買入れていることが、国債市場の流動性低下を深刻化させてしまうと、それは国債市場だけの問題にとどまらず、主に以下の3つの経路を通じて、資金取引全体の委縮、金融市場の不安定化、さらには経済への悪影響などの問題を生じさせる可能性がある点に留意しておきたい。

第1に、①国債の担保玉不足が深刻化すること、あるいは②担保に利用される国債の市場流動性が低下し、価格変動率(ボラティリティ)が高まることは、各種の資金取引を委縮させ、経済活動にも悪影響を与える可能性がある。

第2に、潜在的に流動性を低下させ、外的ショックへの耐性を弱めた国債市場で国債価格の顕著な下落が生じれば、それは国債を大量に保有する金融機関のリスク許容度を低下させることを通じて、貸出抑制やリスク資産売却を招き、それらが経済、金融の安定を損ねる契機となる可能性がある。

第3に、レバレッジを容易に高めることが可能な国債レポ市場では、国債価格下落による担保価値下落が、信用リスクを生じさせ、急激な取引の縮小などに繋がる可能性もあり得る。

日米のレポ市場

グローバル金融危機前の米国では、モーゲージ担保証券(MBS)やそれらを組み合わせた債務担保証券(CDO)など、複雑かつ流動性の低い証券化商品を担保に用いたレポ取引を通じて大量の資金が調達され、それが証券化商品の組成や購入に充てられる、という形で金融機関のレバレッジが急速に拡大していた。またこうした仕組みが、投資の面で金融機関の過剰なリスクテイクを促してしまったとも考えられる。

住宅価格の下落を契機に、これらの証券が担保として受け入れられなくなり、金融機関は俄かに資金繰りに行き詰ったのである。金融機関の破綻を回避するために米連邦準備制度理事会(FRB)は2008年3月、担保として受け入れられなくなったそれらの証券を担保として受け入れ、国債を貸出す、「証券貸出ファシリティ(Term Securities Lending Facilities: TSLF)」という枠組みを導入した。さらに同年11月には、それらの証券を直接買入れることで、価格の支援と流動性供給を実施したのである。

こうした米国の経験と同様の深刻度を持つ訳ではないとしても、日本ではレポ市場において、国債がかつての米国での証券化商品と似た役割を果たしていると考えることも可能であり、国債価格が大きく下落する際には、金融機関の信用力低下や資金繰りの困難化といった状況との間に悪循環が生じ、経済、金融市場に悪影響が及ぶ可能性が否定できないだろう。

国債レポ取引での各種リスク

国債担保を用いたレポ取引は、無担保コール取引などと比べると「信用リスク」が当然ながら小さいが、国債価格が下落して担保不足が生じる際には、資金の出し手に「信用リスク」が発生する。これは、国債価格下落による損失から取引先が破たんした場合に、担保国債でカバーされない不足分が回収できるかどうかに、不確実性があるためである。これは、「市場リスク」が「信用リスク」に転嫁するというメカニズムを示していよう。

また実際に、国債を担保に資金を供給した取引先が破たんした場合には、受け入れた担保国債を売却して現金化する必要が生じる可能性があるが、その際に国債市場の流動性が十分に高くなければ、売却時に価格が下落し、担保価額を下回る水準まで割り引いて現金化せざるを得なくなることもあるだろう。これは、市場の「流動性リスク」である。この場合、レポ取引を通じてレバレッジが積み上がっていれば、担保国債の売却によって国債価格の下落傾向が強まり、それが国債レポ市場での信用リスクを高めて取引を委縮させる、といった連鎖が生じ得るだろう。これは、①「信用リスク」、②「市場リスク」、③「流動性リスク」が複合され、増幅された形である。

国債レポ市場でのレバレッジ拡大のリスク

資金供給先が破たんした場合に与信者が負う信用リスクは、国債レポ取引では担保がある分、無担保コール取引と比べて小さい。しかしながら、無担保コール取引で破綻先向けの与信者となっている金融機関が、その破綻先が差し出した国債をレポ取引の担保に受け入れているような場合には、金融取引全体でのリスクは必ずしも軽減されないのである。

実際、レポ取引は、レバレッジを用いて参加者が大きなポジションを持つことを可能にすることを通じて、システミック・リスク(注2)を高める可能性がある。参加者は手元資金を用いて国債を購入し、その国債を用いてレポ取引で資金を調達し、さらにその資金を用いてレポ取引で国債を調達する、という取引を繰り返す形で、レバレッジを大きく拡大させることが可能となる。このレバレッジに歯止めをかけるのは、一般的には、差し入れられる担保の価値に対して貸出される資金の額を割り引く、ヘアカット(担保掛け目の逆数)である。

しかし国債の信用リスクの低さを背景に、日本の国債取引でヘアカットが実施されているのは、日本銀行のサーベイによると、2014年7月末時点でわずか16%(「実施している」との回答が5%、「一部実施している」との回答が11%)(注1)に過ぎない。当初の手元資金に対して、最終的な最大取引ポジションの規模の割合をレバレッジ比率とすれば、担保価値に付されるヘアカット比率の逆数がそれに一致する計算になる。例えばヘアカット率が5%であれば、レバレッジ比率は20倍となるのである。ヘアカットが設定されなければ、レバレッジ比率は無限に高めることが、理論上は可能となる。

レポ取引にシステミック・リスク

このように、担保のヘアカット設定は、担保価値の下落が信用リスクを生じさせないだけでなく、レポ取引のレバレッジ拡大に歯止めをかける効果があるが、これがなされていないと、取引参加者の破綻がシステミック・リスクを生じさせる可能性が高まる上、担保となる国債価格の下落が国債の換金売り需要を高め、その価格下落とそれを担保にするレポ取引あるいはその他資金取引の減少、国債価格下落による金融機関の収益悪化や信用力低下といった様々なリスクを相乗的に高めてしまうのである。

日本の国債レポ取引では、約定期間中に貸借の対象となった国債価格が変動した場合、担保として差し入れられた国債の金額と時価との間の過不足を計算するいわゆる「値洗い」を行い、不足分の補填、あるいは余剰分の返還という調整を行う権利があり、これを「マージン・コール」という。

しかし事後的な調整であるこの手法のもとでは、国債価格の大幅下落が、国債担保を差し入れて資金を調達している金融機関を破たんに追い込むような深刻な事態においては、国債担保を受け入れている金融機関の収益への悪影響は免れなくなるだろう。すなわち「カウンターパーティーリスク」は遮断されず、システミック・リスクが生じる可能性があるのである。

日本の国債レポ市場は、グローバル金融危機以前の米国のようにレバレッジが過度に高められた状態にはないものの、仮に国債価格の大幅下落が生じれば、国債レポ取引を通じてシステミック・リスクが発生する可能性がありうる点には留意しておきたい。


(注1)日本銀行 『わが国短期金融市場の動向-東京短期金融市場サーベイ(15/8月)の結果-』(2015年10月)
(注2)個別の金融機関の支払不能等や、特定の市場または決済システム等の機能不全が、他の金融機関、他の市場、または金融システム全体に波及するリスクのこと(日本銀行)

Writer’s Profile

木内登英Takahide Kiuchi

エグゼクティブ・エコノミスト

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