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ECBの9月政策理事会のAccounts-Stepwise reduction

2017年10月06日

はじめに

金融市場における政策論は、税制改革の方向性や、FRBによるバランスシート調整に議長人事と話題の豊富な米国市場に焦点が当たっている。しかし、次に金融政策の「正常化」に着手するのはユーロ圏である。次回(10月)の政策理事会での決定内容を探る上で、前回(9月)のAccount(議事要旨)の内容を検討したい。

金融経済情勢の評価

前回(9月)の政策理事会には景気や物価に関するスタッフ見通しが提示されたが、その内容については意見が一致していたようだ。景気に関しては、雇用や所得、センチメントの好転に支えられた個人消費の拡大が継続することに加え、企業収益や設備稼働率の高さを背景に設備投資の回復が進むとの基本的なシナリオが支持された。輸出に関しても-ユーロ高の問題はあるが-海外経済の拡大に支えられるとの見方が確認された。

物価に関しては、総合インフレ率の改善がエネルギー価格の上昇による面が大きい一方、コアインフレ率の改善のモメンタムがなかなか高まらない点への懸念が共有された。もちろん、強力な金融緩和によって緩和的なfinancial conditionが維持される下で、上記のような景気拡大によって需給ギャップが早期に縮小すると見込まれるとして、政策理事会メンバーもインフレが目標に向かうこと自体への信認は維持している。

一方、政策理事会メンバーからは、ユーロ相場の増価が輸入物価を下押しするリスクや、雇用契約において賃金以外の要素が重視されるようになった可能性、過去の見通しで賃金の予想が過大であった傾向なども指摘され、インフレ目標の達成に至るパスを取り巻く不確実性は高いとの認識も維持した。

ユーロ相場の評価と展望

前回(9月)の政策理事会では、ECBによる声明文やドラギ総裁の記者会見が示唆するように、ユーロ相場の増価を巡る議論に大きなウエイトが置かれた。

まず、クーレ理事が「執行部説明」の中で、ドイツ国債の利回りが低下したにも拘らず、ユーロ相場が対ドルで増価している点を指摘し、米欧双方の金融政策に関する短期的な見通しの変化、あるいは欧州株に対する資金流入のいずれかがこうした動きの背景になっているとの理解を示した。

政策理事会メンバーによる議論は大きく二つに分かれた。一方で、ユーロ相場の増価は、基本的にはユーロ圏の経済や物価の改善、あるいは政治リスクの後退といった内生的要因による面が大きいとの理解が示されたほか、スタッフによる経済モデルを用いた分析(非公開)に基づき、総需要と金融政策、外生要因の三つが各々同程度の寄与度を持つとの指摘がなされた。

他方で、ユーロ相場の増価による経済成長や物価へのpassthroughには不透明性が高いとの指摘がなされたほか、ユーロ相場の増価に内生的な面があるとしても、米欧の金融政策の違いや米国の景気や財政政策に対する展望といった外生的な要素も強いとして、上記のスタッフによる分析にはさらなる検証が必要との批判も示された。その上で、こうした要素を考慮すれば、ユーロ相場が将来にovershootするリスクも指摘された。

結果としては、声明文やドラギ総裁の記者会見で示されたように、ユーロ相場は"source of uncertainty"として警戒する見方 が支配的になった訳である。

金融政策の方向性

前回(9月)の政策理事会は、上記の議論と整合的な形で金融政策の現状維持を決めただけでなく、来年以降の量的緩和の運営に関する判断も先送りした。もっとも、議事要旨は後者に関して様々な議論が行われたことを明らかにしている。

まず、政策理事会メンバーは、この点に関する判断を秋(autumn)に行うとの考え方とともに、そうした判断は物価見通しとそのリスクに基づいて行うべきことを確認した。同時に、将来の政策手段の運営に関するオプションやそれが経済や市場に与える影響について、NCBによる検討を進めることも確認された。

その上で、政策理事会メンバーは、将来の政策スタンスと、政策手段の運営や波及メカニズムに関して、「非常に初期的(very preliminary)」な意見交換を行った。まず、ユーロ圏では強力な金融緩和の維持が依然として必要である一方、景気の回復やデフレリスクの後退により、インフレ目標の達成に対する信認が強まったことも確認した。

これを受けて、一部のメンバーからは金融緩和の強度を調節するための条件が満たされつつあるとの意見や、金融政策運営における双方向の柔軟性-「のりしろ」を含む-を確保することが必要との意見が示され、量的緩和の縮小に向けた議論がなされた。

これに対し他のメンバーからは、インフレ目標の達成に向けた動きが極めて緩慢であることへの懸念が示され、物価見通しやfinancial conditionの先行きに関するリスクを考慮すると、金融政策スタンスの調整はきわめて漸進的かつ慎重であるべきとの主張がなされた。その上で、financial conditionに関しては、市場の予想と異なる政策判断を行った場合にインフレ目標への動きが毀損される懸念と、市場が既に量的緩和の見直しを織り込んでいるためにこうした懸念は当たらない可能性、の双方が指摘された。

もう一つ注目すべきポイントは、量的緩和の縮小方法に関しても議論が行われた点である。議事要旨の上ではわずか4行の記述であるが、①比較的大きく減額した上で、比較的長く継続するか、②比較的小額の減額に止めた上で、継続期間を比較的短くするか、の二つの方針を議論したとされている。

残念ながら、どちらのオプションが支持されたかは明示されておらず、量的緩和の見直しだけを独立して議論するのでなく、政策金利に関するフォワードガイダンスなども含め、金融緩和の枠組み全体の中で議論すべきとの指摘だけが記されている。

いずれにせよ、来年1月以降の量的緩和は、かねて市場が想定していたような一直線のtaperingというよりも、減額で継続となる可能 性が高まったわけである。こうしたstepwiseな減額も、長い目で見ればtaperingであるが、利上げの開始時期なども当然に影響を受けることになる。

議事要旨が明示したように、「主要な決定(bulk of decision)」は次回(10月)の政策理事会でなされる訳であり、そこに向けた ECB高官の発言には従来以上に注意する必要があろう。

Writer’s Profile

井上哲也

井上哲也Tetsuya Inoue

金融イノベーション研究部
主席研究員
専門:中央銀行、国際金融

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