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ECBのELAとバーゼルⅢでのソブリンリスク議論

2017年10月04日

ECB の緊急流動性支援(ELA)とは?

欧州中央銀行(ECB)は、2017年6月19日に緊急流動性支援(ELA:Emergency Liquidity Assistance)の実施規則の全容(注1)(注2)を公表した。これは2013年に公表した概要の詳細を示したものである。内容については従来から変更はなく、またこのタイミングで全容を示したことに特段の意図はないという。

ELAとは、ユーロ圏の各中央銀行が、流動性問題に直面している金融機関に対して、独自の判断で流動性を供給する枠組みである。その実施責任は各中央銀行にあり、実施に伴うコストもその中央銀行が負うことになる。これは一般に中央銀行が持っているLLR(Lender of Last Resort:最後の貸し手)機能に似ているが、①支払い不能に陥っていない存続可能な銀行に対してのみ実施可能である点、②ECBの承認が必要となるケースがある点から、完全なLLRではない。これが後に見るように、ユーロ圏での各国の国債の信用リスク(ソブリンリスク)の評価にも影響してくるのである。

各中央銀行によるELA利用の制限

ECBが公表した実施規則によれば、ECBの政策理事会が、各国中央銀行によるELAの利用を認めないケースとして大きく3点あると考えられる。第1は、それがECBの金融政策を阻害する場合である。ユーロ圏内で金融政策運営はECBに一元化されており、ELAは金融政策とは異なるものと位置づけられている。第2は、流動性の問題に直面している対象銀行が、事実上支払い不能(insolvent)と判断される場合である。そして第3は、政府への信用供与、財政ファイナンスと判断される場合である。

ギリシャ危機でのELA利用

最近では2015年のギリシャ危機の際に、ギリシャ中央銀行がECBの承認のもとで、ギリシャ政府のデフォルト回避のためにこのELAを利用した。財政危機に直面していたギリシャ政府は短期の国債を発行したが、ギリシャ中央銀行がELAを通じて供給した流動性を利用して、ギリシャの民間銀行はこの短期の国債を買入れ、政府の資金調達を助けていた。つまり、銀行を迂回させる形で、原則禁じられている財政ファイナンスに、事実上はこのELAが利用されている状況に近かったと言えるだろう。

ただし、ユーロ圏、国際通貨基金(IMF)などによるギリシャ政府に対する追加的な財政支援がまとまらない前に、ECBがギリシャのELAを禁じれば、それがギリシャ政府のデフォルトの引き金となってしまうことから、例外的にELAの利用を認めざるを得なかったという面があったであろう。また、ECBがギリシャ中央銀行のELAを認めない可能性をちらつかせることで、ギリシャ政府から財政健全化策などでの譲歩を引き出すという、政治的な戦略にECBが事実上関与していた面もあったと考えられる。

不完全なLLRとソブリンリスク

既に見たように、ユーロ圏の各国中央銀行は、ELAという制限付きで不完全なLLRしか認められていない。それが、各国国債の信用リスク、デフォルトリスクの評価にも影響しているのである。

通常、先進国においては、自国通貨建ての国債の信用リスクは極めて低いと考えられる。それは、政府が徴税権を有するもとで、増税を通じて最終的にデフォルトを回避できることに加えて、それに時間を要する場合でも、例外的措置として中央銀行が一時的に新規発行分の国債を買入れることで、政府のデフォルトを回避できるためである。

バーゼル銀行規制においては、自国通貨建ての国債は、格付けに関わらず、各国の裁量で信用リスクをゼロにすることができる。ユーロ圏でも、EU加盟国が発行するユーロ建て国債をすべて自国通貨建て国債として扱い、0%のリスク・ウエイトが適用されているのである。

しかし制限付きで不完全なLLRしか認められていないユーロ圏では、ユーロ建て国債のリスク・ウエイトが果たしてゼロで良いのか、という疑問はある。そのような問題意識を強く抱いたのが、ドイツなどのユーロ圏中核国であった。

バーゼルでのソブリンリスク議論

ユーロ圏の周縁国では、民間銀行が自国のユーロ建て国債を多く保有する傾向がある。そのもとで、財政環境の悪化を受けて国債価格が下落すれば、それは銀行の財務を悪化させ、国債購入・保有におけるリスクテイク力を低下させてしまう。その結果、国債が自国の民間銀行によって消化されにくくなり、財政リスクがさらに高まる。また信用力が低下した銀行の救済に公的資金が利用されることで、財政環境がさらに悪化する可能性もある。このような形で、財政リスクと銀行リスクが相乗的に高まる可能性が考えられるのである。これこそが、近年の欧州債務問題の本質でもあった。

そこで、ドイツなどの中核国では、銀行規制におけるソブリンリスクの扱いを再検討することをバーゼル銀行監督委員会に求めたのである。具体的には、格付けに応じて、各国のユーロ建て国債に相応のリスク・ウエイトを新たに与え、それを通じて銀行の自国国債保有を抑制させる、あるいは自己資本の積み増しを促すことが目指された。

これを受けてバーゼル銀行監督委員会は2015年1月、ソブリンリスクの取り扱いについて検討を進めることを発表した(注3)。

ソブリンリスクはユーロ圏の問題

現在、バーゼルⅢは、最終合意の直前の段階でやや膠着感を強めているとみられる。その一因は、国際金融規制に否定的な米国でのトランプ政権の発足であり、また政権移行に伴う米国側での交渉担当者不足であるとみられる。それに加えて、ソブリンリスクの扱いを巡るユーロ圏中核国とその他の国々との間での意見対立も、その最終合意を阻む要因になっているとみられる。

しかし既に見たように、ソブリンリスク(自国通貨建て国債の信用リスク)は、共通通貨制度を採用しているユーロ圏の特殊な事情に根差しているという側面が強いと思われる。この点から、ユーロ圏中核国は、ソブリンリスクの扱いを、国際規制の場ではなくユーロ圏あるいは欧州地域の独自の規制の問題として議論していくことが妥当であり、それを通じて、バーゼルⅢ最終合意の障害となっているこの問題を解消するように努めるべきではないか。

(注1)https://www.ecb.europa.eu/press/pr/date/2017/html/ecb.pr170619.en.html
(注2)https://www.ecb.europa.eu/pub/pdf/other/Agreement_on_emergency_liquidity_assistance_20170517.en.pdf
(注3)「国際的な金融規制改革の動向(11訂版)」みずほ総合研究所

Writer’s Profile

木内登英Takahide Kiuchi

エグゼクティブ・エコノミスト

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