1. HOME
  2. ナレッジ&インサイト
  3. 研究員の時事解説
  4. 神宮健のFocus on 中国金融経済
  5. 人民銀行の金融包摂のための預金準備率引下げについて

人民銀行の金融包摂のための預金準備率引下げについて

2017年10月03日

人民銀行は9月30日に「金融包摂に対する預金準備率の定向引下げ実施に関する通知」(9月29日付。定向はターゲットを決めて行うことを意味する)を発表した。金融包摂(Financial Inclusion)を促進するために、小・零細企業・農村向け融資が一定の比率を満たした銀行(国有銀行、株式制商業銀行、郵政貯蓄銀行、都市商業銀行、外資銀行、県以外の農村商業銀行)について預金準備率を引き下げる。

通知によれば、金融包摂領域の融資には、500万元未満の小・零細企業向け融資、小・零細企業経営者や個人営業者に対する融資(経営資金)、農家生産融資、「創業担保(レイオフ・失業人員)」融資、貧困層の消費融資と教育補助融資が含まれる。

そして、前年の金融包摂領域の融資の増分の人民元融資の新規増加分に占める割合が1.5%、あるいは、前年末の同領域の融資残高が人民元融資全体に占める割合が1.5%に達した場合、預金準備率を法定基準から0.5ポイント引下げる。同じく、前年の同領域の増分、あるいは前年末残高が10%に達した場合、さらに預金準備率を1.0ポイント(計1.5ポイント)引下げる。2017年のデータを下に2018年から運用される。

これまでも小・零細企業や農村向け融資を促進するために、預金準備率の面で優遇策が取られていたが、今回は金融包摂の概念の下で優遇の対象を広げた上で、それらを統一的に扱っている。

間接金融が大部分を占める中国の金融システムにおいて、銀行の融資が大企業に集中し、中小零細企業や農村など本来資金を必要とする部分に資金が流れ難く、またそのコストが高くなる問題が、従来から指摘されてきた。これらの今回、金融包摂領域とされている分野にまで、通常の金融調節手段(公開市場操作等のマクロレベルの流動性のコントロール)で資金を流そうとすると、過熱しやすい不動産部門や淘汰すべきゾンビ企業等に先に資金が流れるおそれがある。このため、2011年頃からターゲットを絞った選択的な金融緩和や預金準備率の優遇等の手が打たれてきた経緯がある。最近では、インターネット金融の発達によって中小企業や個人の資金調達の道も広がっているものの、規模の面ではなお小さく、やはり、マクロレベルでは今回のような措置が採られることになる。

金融政策が個別の分野別に対応する傾向が続いているとも言える。金融政策自体は、穏健・中立のスタンスが続いていると見られるが、個別の動きからは判断し難い面もある。最近も、10月の国慶節連休を前に、不動産価格の値上がりが大きい都市を中心に新たな不動産市場に対する引締め策が打たれており、一部の商業銀行では住宅ローン融資が絞られ、また住宅ローン金利も引上げられていた。

今回の優遇策は、17年のデータを基に決められることから、今年の残り3ヶ月間で一定程度、小企業等への融資を増やして経済を安定させる意図が見られる。ただし、上述したような環境の中では、金融包摂領域の名目で貸し出された資金が不動産市場等へ流れることが懸念材料であることから、当局も厳格に実施するものと思われる。

Writer’s Profile

神宮健

神宮健Takeshi Jingu

NRI北京
金融システム研究部長
専門:中国経済・金融資本市場

このページを見た人はこんなページも見ています