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「Jコイン」構想とは何か?

2017年09月22日

「Jコイン」は「仮想通貨」と呼べるか

9月17日付の日本経済新聞は、「邦銀連合で仮想通貨」という見出しで、円と等価交換ができる仮想通貨「Jコイン」を扱う新会社「Jコイン会社」が設立されると報じた。個人がインターネットや店舗での支払いに使える新しい仮想通貨の創設に向けて、みずほフィナンシャルグループやゆうちょ銀行、数十の地銀が連携するのだという。しかし記事を見る限り、この構想は、アリペイなど中国で急成長を遂げたスマホ決済の仕組みに近いものであり、新たな仮想通貨であることを強調するのは、ややミスリードではないかとも感じられる。

ここでは、決済コストを大幅に低下させる新技術である分散型元帳技術(DLT)が利用される訳でもなく、また新たな仮想通貨は常に円と同価であることから事実上円決済である。この点から、ビットコインのように通常「仮想通貨」と呼ぶものとは全く異なるものと見られる。

基本的な決済のシステムはアリペイなどと同じか

記事を読む限り、基本的な決済のシステムはアリペイなどと同じであり、「Jコイン会社」はいわゆるエスクロ・サービス提供会社であると思われる。エスクロとは「第三者預託」の意味であり、エスクロ・サービスとは、この第3者が取引の安全性を保証する仲介サービスのことである。

利用者はエスクロ・サービスが提供される銀行に通常の口座を持ち、さらに同じ銀行に「Jコイン」専用口座を持つと考えられる。そして利用者は、常に通常の口座から「Jコイン」専用口座に送金をして、決済用の資金を補充しておくのである。その面では、プリペイド方式の電子マネーと似ている。

店舗も同様な専用口座を持ち、店舗での買い物の際の決済は、エスクロ・サービスを介して、この専用口座間の送金によって行われるのだろう。

送金手数料が重要

記事によれば、「Jコイン」専用口座間での個人の送金は無料であるという。割り勘などに利用される専用口座間での個人送金は、中国ではかなり一般的である。個人の送金は無料であるということは、買い物をした店への送金は、無料ではなく手数料が掛かるということなのだろう。分散型元帳技術(DLT)等を利用せずに、既存の銀行決済システムに依存するこうしたサービスでは、決済には銀行に支払う通常の振込手数料が発生する。筆者の理解では、アリペイではこうした振込手数料は、運営会社が肩代わりしている。そして、肩代わりできるのは、取引履歴などから得られるビッグデータをビジネス化して利益を上げているからに他ならない。

「Jコイン」の本質はビッグデータの国内確保

記事によれば、Jコインの管理会社は、利用者の買い物や送金の履歴をビッグデータで蓄積し、匿名データに加工して他の銀行や企業と共有し、商品開発や価格戦略に活かす考えだという。また、アリペイのサービスが来春にも日本で始まるなか、外国企業に決済に関わるビッグデータを握られることを警戒しているのだともいう。

今回の「Jコイン」の本質部分は、既存の仮想通貨への対抗などではなく、まさにこの部分にあるのだろう。そして、ビッグデータの海外流出を強く警戒している日本政府も、この構想に関与しているのかもしれない。

銀行の本業以外でのビジネスの巧拙が問われる

個人がこの「Jコイン」をどの程度利用するかは、その使い勝手の良さ次第で決まり、特に決済コストは重要な利用の誘因となる。日本では、この決済システムを運営する会社の背後にあるのは銀行である。しかし、特定の顧客だけ振込手数料で優遇するようなことは、簡単にはできないだろう。そうなれば、取引履歴から得られるビッグデータの利用をどの程度ビジネス化させ、そこからどの程度の収益を上げるかによって、利用者の手数料をいわば情報の対価としてどの程度引き下げられるかが決まってくるようにも思われる。手数料が下がれば「Jコイン」の利用が広がり、ビッグデータの蓄積が進む。手数料が十分に下がらなければ、「Jコイン」の利用が広がりを欠き、ビッグデータも十分に蓄積されず、そこからの収益も伸びない、というまさに循環問題となるのである。

海外では銀行に競合するフィンテック企業が担うこうしたビジネスを、日本では銀行自身が担う構図となっているのである。この点から、まさに銀行の本業以外でのビジネスの巧拙が問われるのかもしれない。

Writer’s Profile

木内登英Takahide Kiuchi

エグゼクティブ・エコノミスト

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