1. HOME
  2. ナレッジ&インサイト
  3. 研究員の時事解説
  4. 井上哲也のReview on Central Banking
  5. FRBのイエレン議長の記者会見- Mysterious in…

FRBのイエレン議長の記者会見- Mysterious inflation

2017年09月21日

はじめに

FOMCは保有資産の圧縮を来月から開始することを決定した。これは金融政策の「正常化」の最終段階であり、先進国で初めてであって、歴史的にも重要な節目となる。しかし、具体的な内容は6月会合で公表された通りであり、着手のタイミングもFRB高官が示唆していただけに、記者会見でもそれ自体に関する議論はみられなかったし、市場も事前に織り込んでいた。

市場は新たに改訂された経済見通しとその下での利上げの考え方にむしろ注目していた面があり、実際、この点に関しては新たな要素が示された。早速内容を検討したい。

新たな経済見通し

FOMCメンバーによる新たな経済見通しは、足許の経済成長率を若干引き上げた一方、インフレ率見通しを若干引き下げるものであった。まず、実質GDP成長率は、2017~19年にかけて+2.4%→+2.1%→+2.0%となり、2017年が0.2%ポイント、2019年が0.1%ポイント、各々前回(6月)に比べて上方修正された。声明文やYellen議長の冒頭説明を踏まえると、特に2017年の上方修正は、設備投資や輸出の上振れを映じたものとみられる。

一方、コアPCEインフレ率の見通しは、2017~19年にかけて+1.5%→+1.9%→+2.0%となり、2017年が0.2%ポイント、2018年が0.1%ポイント、各々前回(6月)から下方修正された。実際、記者会見ではインフレ率のモメンタムが高まらない理由を質す向きがみられた。これに対し、イエレン議長は昨年秋にかけてのドル高や本年入り後のエネルギー価格の停滞、携帯電話料金の低下といった一時的要因の影響がある一方、7月のFOMCで議論したような構造要因の影響も否定できず、景気や雇用を考えるとミステリーであると回答した。

なお、デュアルマンデートのもう一つの柱である雇用に関し、失業率の見通しは、2017~19年にかけて+4.3%→+4.1%→+4.1%となり、2018年と2019年がともに0.1%ポイント、前回(6月)から下方修正された。FOMCメンバーは「長期」の失業率を依然として4.6%とみているだけに、労働市場は今後数年にわたって長期失業率を下回る「超完全雇用」が続くと予想していることになる。こうした予想は、上記のようにインフレ率が加速しないことを合理的に説明するための材料になっていることにも注意する必要があろう。

なお、今回の経済見通しは初めて2020年をカバーしており、FOMCメンバーは、実質GDP成長率を+1.8%、コアPCEインフレ率を2.0%、失業率を4.2%と予想した。失業率が極めて低い下で物価は2019年以降の2%を維持する一方で、経済成長が潜在成長率付近まで若干鈍化するとみており、つまり、緩やかな景気拡大が2020年にかけて続くとの見方である。

政策金利の予想パス

経済見通しを前提に、FOMCが同時に公表したdot chartに関しては、二つの要素が注目される。第一に、2017年末の予想が1.4% に据え置かれ、年内にもう1回の利上げを示唆した点である。

この点は市場にとってアップサイドのサプライズとなった面があろう。例えば、FF先物に織り込まれた利上げ確率をみても、12月利上げは直近まで4割を下回っており、CPIインフレ率を受けた足許の水準もようやく5割強であったように、12月利上げを疑問視する見方がむしろ強かったからである。その一つの理由は、12月利上げに際して直近の材料となる第3四半期の経済データが相次ぐハリケーンの影響によって歪むため、FOMCメンバーはより適切な材料を待つのだろうといった思惑であった。

これに対しFOMCメンバーは、経済活動がハリケーンの影響を受けることを認めた上で、基調的な景気が堅調であるだけに、影響は一時的に止まるとの見方を声明文に明記した。しかも、dot chartによると、FOMCメンバーの大半(12/16)が利上げを主張したことが明らかになっており、この先に余程のことが生じない限り、12月利上げが行われるとのスタンスが示唆されている。

一方で、今回のdot chartの第二のポイントは、先行きの政策金利のパスが下方修正された点である。具体的には、2018~20年末にかけて2.1%→+2.7%→+2.9%とされ、2019年が0.2%ポイント引き下げられたほか、前回(6月)の2019年末の見通しであった2.9%が2020年末に実現するとして、実質的に後ろ倒しされた。

この点は、FOMCメンバーによる「長期」の政策金利見通しと関連付ける必要があろう。実は、この点に関する見通しは2.8%と前回(6月)から0.2%ポイント下方修正された。つまり、FOMCメンバーは、予て想定していたよりも長い時間をかけて、しかもより低い到達点に向かって利上げを行うのが適切と判断したことになる。

記者会見では、「長期」の政策金利の下方修正の理由を質す向きも見られたが、イエレン議長は生産性の長期的な低下や人口の高齢化による自然利子率の低下の可能性を示唆した。

既に長期金利は低下傾向にあっただけに、こうした下方修正が市場にダウンサイドのサプライズであったかどうかは微妙な点も残る。それでも、dot chartによれば、FOMCメンバーの見方は、3%と2.75%だけでなく2.5%にも相応に分布しているだけに、今回の「正常化」サイクルにおける政策金利の最終到達点を巡る議論に相応のインパクトを持つとみられる。実際、現時点で米国の2年国債と10年国債の反応が異なる様相をみせた点は、今回のdot chartの特徴を反映しているように見える。

政策反応関

冒頭に見たように、FRBが保有資産の圧縮に着手すること自体は、市場に既に織り込まれていた。加えて、長期金利がそもそも低下傾向を辿っていることや米国債に対する海外からの需要の強さもあり、保有資産の圧縮による長期金利の上昇圧力は、少なくとも当面は円滑に吸収されうるとの見方が支配的であった。

一方で、筆者が月初にニューヨークを訪問した際にも、保有資産の圧縮と利上げが平行的に進行していく場合の長期金利への影響や実体経済に対する波及効果については、慎重な見方も根強かった。そうした状況を踏まえてか、記者会見でも、景気や物価が予想外に下振れした場合の対応に関する質問が散見された。

これに対しイエレン議長は、余程のことが生じない限り、政策金利の調整によって対応するとの考えを説明した。この点自体は6月FOMCで示した方針を踏まえたものであるが、今後の利上げについては、先に見たようにペースがいわば「間延び」する上に、こうした不安定要素の影響も受けうるという意味で、やはり、これまでよりも不確実性が高まったことは否定できないであろう。

Writer’s Profile

井上哲也

井上哲也Tetsuya Inoue

金融イノベーション研究部
主席研究員
専門:中央銀行、国際金融

この執筆者の他の記事

井上哲也の他の記事一覧

このページを見た人はこんなページも見ています