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FRBバランスシート圧縮の着地点

2017年09月20日

注目はバランスシート圧縮の着地点

9月19、20日に開催される米連邦公開市場委員会(FOMC)で、バランスシート圧縮の開始が決まる(発表は日本時間21日早朝)可能性が高い情勢であり、その決定の有無はもはや金融市場の関心事ではなくなっていよう。他方、金融市場に与える影響を考えれば、最も重要なのは、未だ明らかにされていないバランスシート圧縮の着地点、つまりどの程度の水準で圧縮を止める方針であるのかと、その際の資産構成、特に財務省証券の平均残存期間である。この2つの情報から、金融市場は最終着地点における長期金利(正式にはタームプレミアム)の水準を推定し、それに対して現在の価格(金利)を調整することになるだろう。

完全なバランスシート正常化方針を撤回

従来、イエレン議長も含め米連邦準備制度理事会(FRB)関係者は、超過準備を完全に解消し、バランスシートの規模を概ねLSAP(大規模資産買入れ策)実施前の水準に戻すことを想定していた。ところがそうした方針は今年に入ってから修正され、「最終的な超過準備は、過去数年の水準を下回るものの、グローバル金融危機を受けてLSAPを開始する前の水準にまでは戻らない見通し」であることが示されたのである。

それでも、具体的なバランスシートの着地点の水準や、その際の資産構成については、具体的には説明されてこなかった。いずれは、これらに関するガイダンスが示されるはずであり、それが今回である可能性も考えられるのである。

2016年ジャクソンホール・コンファレンスが転機になったか

バランスシート圧縮の着地点に関して、FRBが従来の方針を変えるきっかけとなったのは、2016年のジャクソンホール・コンファレンスであったと推測される。そこでは、ⅰ) 金融システムの安定性を高める、ⅱ)金融政策の波及効果を高める、ⅲ)最後の貸し手機能、の3つの観点から、バランスシートを高水準に維持し続けることのメリットが説かれたのであった。どれがFRBの方針転換に最も大きな影響を与えたのかは不明であるが、そのうちⅰ)の観点から報告を行った学者の一人であるロビン・グリーンウッド(Robin Greenwood)ハーバード大学教授が、今年7月のコンファレンスでこの点を再度説明している(注1)。以下ではその内容を概観したい。

短期安全資産に注目

グリーンウッド氏は、FRBの拡大したバランスシートは、金融システムの安定を強化する手段として活用できると主張している。民間金融機関は、安全で流動性の高い短期証券を保有したいという強い需要があり、このため、TB1週間物など政府の短期債務が強く選好される傾向も強い。さらに自己資本比率規制、流動性規制など幾つかの金融規制の変更が、銀行あるいはMMFなどノンバンクにも、そうした需要を強めることを促したのである。

こうした需要に対して、従来は民間も短期債務商品の供給を拡大させたのであるが、その問題がグローバル金融危機で表面化してしまったのである。当時金融機関は、ABCP(資産担保コマーシャル・ペーパー)を通じて資金調達を拡大させるとともに、リスクの高い長期の投資を拡大させていった。この民間の短期債務の拡大が、金融機関に過度なリスクテイクを促し、金融危機の引き金になったのである。より具体的には、2008年のグローバル金融危機発生の前兆となった2007年8月のパリバ・ショックは、アメリカのMMFが、RMBS(住宅ローン担保証券)を担保としていたABCPの格下げを受けて、それをロールオーバーしなかったことがきっかけで起こったものである。そのため、ABCPを発行して資金を調達していたファンド等は、俄かに資金繰りに窮することになったのである。

中央銀行が短期安全資産を供給すべき

このような経緯を踏まえ、グリーンウッド氏らは、FRBが安全で流動性の高い短期債務の供給を担うのが良い、と主張しているのである。それがFRBの中銀当座預金であり、また所要準備先以外の金融機関も含めて短期の資金運用ニーズをFRBが満たす、レバース・レポ・プログラム(RRR)である。その分、民間金融機関が負う、短期での資金調達、長期での運用というデュレーション・ミスマッチのリスクが低下することが、金融機関の破綻リスクを低下させ、金融システムの安定にもつながるのである。

こうした機能を維持するためには、FRBは高水準のバランスシートを維持することが求められるが、それによって金融システムの安定が確保されるのであれば、FRBは雇用、物価のコントロールに集中することもできるだろう、とも主張されている。

モラルハザードとFRBの機能拡大への懸念

しかし、FRBが経常的に巨額の短期安全資産での運用手段を銀行に提供するようになれば、民間金融機関はその資金に頼りきってしまい、流動性を効率的に運用、管理しようとするインセンティブが削がれてしまう、というモラルハザードの問題が生じることになろう。

さらに金融危機の際に民間金融機関は、その資産の運用をFRBが提供するこのRRRに一気に傾ける可能性がある(質への逃避)。その際には、民間金融資産が投げ売りされて、市場がより不安定化する恐れがあるだろう。

またこのような形でバランスシートが恒常的に高水準に維持されることは、FRBがマクロ金融政策と、金融システム安定化策の双方において、以前よりも大きな役割を恒常的に担うことになる。これは、FRBの権限を縮小させ、議会の監視をより強めることを主張する共和党議会からの反発を呼ぶことも予想される。

FRBは、金融市場の反応と議会・政府からの反応の双方に十分配慮して、バランスシート圧縮の最終着地点やその背後にある考え方を、慎重に示していくことが求められるだろう。


(注1)https://www.newyorkfed.org/medialibrary/media/newsevents/events/markets/2017/frbny-columbiasipa-robingreenwood-presentation.pdf

Writer’s Profile

木内登英Takahide Kiuchi

エグゼクティブ・エコノミスト

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