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英国における四半期開示義務化とその撤廃の影響

2017年09月13日

2017年6月に取りまとめられた日本政府の経済成長戦略「未来投資戦略2017 -Society 5.0の実現に向けた改革-」は、国内上場企業に対して義務付けられている四半期報告書の提出などの四半期開示制度について、「義務的開示の是非を検証しつつ、企業・投資家を含む幅広い関係者の意見を聞きながら、更なる重複開示の解消や効率化のための課題や方策等について検討を行い、来年春を目途に一定の結論を得る。」とし、制度の改廃を視野に入れた検討を進めることを求めている。この背景には、近年、四半期開示制度の存在が投資家や企業経営者の短期志向(ショートターミズム)を助長しているのではないかといった指摘がみられるという事情がある。

日本の四半期開示制度は、1970年から現行の四半期報告書の提出を義務付けている米国の制度をお手本としつつ、2006年の金融商品取引法制定時の法改正で導入された。一方、欧州では、四半期開示制度の是非について長年にわたる議論が行われている。2004年12月に採択されたEU(欧州連合)の透明性指令が四半期開示にあたる中間経営概況(IMS)の開示を義務付けたものの、2013年10月の改正で、原則として年次、半期を超える頻度での開示義務を課すことを禁じるに至った。

このため、英国では2007年から2014年までの7年間に限って、上場企業に対する四半期開示の義務付けが行われる結果となった。最近、その影響を定量的なデータを用いて実証分析した研究論文が公表されている(注1)。この研究によれば、まず、四半期開示の義務付け前後に生じた変化については、次のような事実が指摘できるという。

①2007年の四半期開示義務付け以前から自主的に四半期開示を行っていた企業と義務化によって新たに開示を行うようになった企業との間で、投資のレベル(資本支出、研究開発、設備の金額)に関する統計的に有意な差違は見出されない。2008年の世界金融危機の影響を排除するために2010年から2013年について検証しても、結果は同じである。
②四半期開示義務付け前の2005年当時、自主的に四半期開示を行っていた企業の52%が、売上高と利益の数値を含む定量的な情報開示を行っていた。この比率は義務化以後低下し、義務化によって新たに開示を始めた企業も定量的な開示を行う者は5%程度にとどまった。
③四半期開示の義務付け以後、翌年度の売上高や利益に関する予想を公表する企業が増加した。四半期開示を自主的に行っていた企業ではその割合は2005年の30%から2010年の53%に、行っていなかった企業では28%から49%に高まった(注2)。
④アナリストによるカバレッジの変化という点では、2007年から2009年にかけて、義務付けによって新たに四半期開示を行うようになった企業をカバーするアナリストの平均人数が2.79人から3.39人へと21.5%増加した。同時に、以前から四半期開示を行っていた企業についても、3.77人から4.78人へと26.5%増加した。また、アナリストによる業績予想の実績とのずれは、義務付け以前から四半期開示を行っていた企業よりも開示を行っていなかった企業について、より小さくなった。

一方、四半期開示義務の撤廃前後に生じた変化については、次のような事実が指摘できるという。

①2014年の規則改正後、直ちに四半期開示を取り止めた企業は、サンプルとした471社中45社(9%未満)にとどまった。そのほとんどは、時価総額が相対的に小さく、また四半期開示が義務付けられていた期間中も業績予想を開示していなかった企業である。
②四半期開示義務の撤廃後も自主的に四半期開示を続けた企業は、引き続き定量的な情報よりも定性的な情報を多く開示し、業績予想の開示を行うという傾向を示した(注3)。
③四半期開示を取り止めた企業が、開示の取り止め後に長期的な投資を行ったことを示す統計的に有意な結果は得られなかった。また四半期開示を取り止めた企業と続けた企業との間で投資のレベルに有意な差違は得られなかった。
④四半期開示を取り止めた企業については、カバーするアナリストの人数の減少が大幅に減少した。開示を続けた企業についてもアナリスト数の減少は生じていたが、その幅は小さい。また、四半期開示の取り止めによっても、アナリストの業績予想の実績とのずれは、統計的に有意な水準で拡大しなかった。

こうした実証結果に基づき、論文は、四半期開示の義務付けとその撤廃の影響について、次のような結論を導き出している。

①四半期開示制度から半期報告制度に移行することは、経営の過度の短期化という現象への有効な対策ではない。
②政治家や規制当局が、上場企業による長期的な観点からの投資を増加させようとするのであれば、四半期開示から半期報告制度への移行ではなく、経営者報酬の長期化や機関投資家による集団的エンゲージメントの促進など、別の方策を講じるべきである。
③他方、半期報告から四半期開示への移行は、アナリストによるカバレッジの拡大や業績予想の正確性向上などの効果を生む。

ここで紹介した研究結果、とりわけ、四半期開示を行うかどうかで企業による長期的な観点からの投資の水準に差違は生じないという結論は、日本における四半期開示をめぐる今後の議論にも大いに示唆的であろう。英国での四半期開示が日本のように四半期財務諸表の開示を求めるものではなかったことや日本における四半期開示制度が、当初、短期的な業績変動の大きいベンチャー企業などの業績動向を的確に示す情報開示が望まれるとして東証マザーズ市場上場企業を対象に整備され、その後、様々な経緯を経て全上場企業に対する法定開示制度となったという事情があることなども踏まえつつ、慎重な議論を進めることが求められるだろう。

(注1)"Consequences of Mandatory Quarterly Reporting: The U.K. Experience", Suresh Nallareddy, Robert Pozen & Shivaram Rajgopal, Columbia Business School Research Paper No. 17-33 (2017).
"Impact of Reporting Frequency on UK Public Companies", Robert Pozen, Suresh Nallareddy & Shivaram Rajgopal, CFA Institute Research Foundation Briefs (2017).
(注2)こうした検証を行った背景には、米国で四半期開示に伴う弊害として、四半期業績予想の開示が行われ、それが経営の短期志向を助長しているといった指摘がみられるという事情がある。
(注3)論文の著者達は、四半期開示を直ちに取り止めた企業の数が少なかった理由として、①多くの企業が四半期開示の社内手続を確立していたので取り止めによるコスト削減効果が小さかった、②四半期開示を取り止めると、株価の大きな変動に際して随時重要情報の公開を求められるなどかえって開示負担が増すと考えた、③短期的な業績変動の大きい業種(小売りやコンピュータ・ゲームなど)、④四半期開示の取り止めがネガティブな情報だと受け止められることへの懸念、⑤業界のトップ企業が米国企業であったり米国に同時上場している、といった事情が考えられると述べている。

Writer’s Profile

大崎貞和

大崎貞和Sadakazu Osaki

未来創発センター
主席研究員
専門:証券市場論

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