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中国の為替政策修正の可能性

2017年09月13日

中国人民銀行が人民元安対策を撤廃

米国との貿易・為替摩擦問題にも配慮して、対ドルを中心とした人民元安対策を積極的に講じてきた中国政府の為替政策が、修正され始めた可能性がある(注1)。ドル安傾向に主導されて対ドルでの人民元高が足もとで急速に進み、それが輸出に与える悪影響が意識され始めたことが背景にあると考えられる。

中国人民銀行は9月11日、人民元安対策として2年間実施してきた、先物市場での人民元売りを抑制する措置を撤廃した。これは、銀行が先物でドル買い人民元売りの取引を行う場合に、中銀準備預金の積み立てを義務付けるものであり、そうした取引のコストを高める、あるいはペナルティーを与えることで、人民元安を牽制する狙いであった。取引の2割の中銀準備預金の積み立てが義務づけられていたという。

さらに中国人民銀行は9月8日、人民元建て預金を持つ外国銀行に対して、中銀準備預金の義務を課す措置を廃止した。これもオフショア市場への人民元の流出を抑制する目的で2016年1月に導入された措置である。

海外直接投資抑制策も緩和へ

また中国政府は、中国企業の海外直接投資を抑制する措置を昨年末から講じており、さらに最近ではその措置を強化するとともに、国内銀行による海外直接投資のための企業向け融資に対する監視も強化してきた。これは、違法な国内資産の海外移転も含め、人民元の海外流出を抑制するための措置であった。

しかし、こうした措置も段階的に廃止されていく見通しであるという。この措置は、8月に公表されたガイダンスに従うものへと修正されていく見通しであり、例えばテクノロジー関連の直接投資はむしろ奨励される一方、不動産、スポーツ、エンターテインメント関連は抑制されるようになるという。

2年間の人民元安対策は見直しへ

こうした一連の措置は、2015年8月の人民元切り下げがグローバルな金融市場に大きな動揺をもたらしたことをきっかけに、過去2年間にわたって実施された、かなり強硬な人民元安対策が、緩和方向へと軌道修正されている可能性を示唆していよう。その背景には、北朝鮮問題の影響などから、米国との間の貿易、為替政策での激しい対立が一巡してきたことがある可能性も考えられよう。また、10月の共産党大会も影響しているのかもしれない。ただし、政策に軌道修正をもたらす直接的な契機となったのは、対ドルでの人民元高傾向なのであり、それが輸出に与える悪影響を中国政府が本気で警戒し始めたことがあると見られる。

特に今年に入ってからの対ドルでの人民元高傾向は顕著となっており、過去5カ月の間に5%近くも上昇している(図1)。共産党大会を視野に、景気サポートのために為替政策の軌道修正を始めた可能性も考えられるだろう。



中国為替政策修正の日本への影響

足もとでの対ドルでの人民元高傾向は、実際にはドル安傾向を反映したところが大きい。そのため、例えば対円でみた人民元は今年に入ってから2%弱しか上昇していない。

それでも、2016年以降の対円での人民元高傾向は、日本企業の輸出面での競争条件の改善を通じて、日本経済の回復を後押ししてきた面もあるだろう。他方、昨年来拡大してきた中国向け輸出には、幾分増勢鈍化の兆しも見え始めている。こうした中で、中国が人民元高を牽制する方向で為替政策を大きく軌道修正する場合には、それが緩やかに日本の輸出環境を悪化させ、経済活動全体にも少なからず影響を与える可能性も考えられるだろう。


(注1)"Beijing Strives to Contain Resurgent Yuan", Wall Street Journal, September 11, 2017

Writer’s Profile

木内登英Takahide Kiuchi

エグゼクティブ・エコノミスト

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