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イールドカーブ・コントロール見直しのすすめ

2017年09月12日

イールドカーブ・コントロールの抱える大きな矛盾

日本銀行が長期金利に目標を設定するイールドカーブ・コントロールを導入してから、間もなく1年を迎える。この制度は多くの矛盾と欠点を抱えていることから、当時審議委員だった筆者はこれに一貫して反対し、廃止して国債買入れ増加額目標を新たに設定することを提案し続けた。

既に本コラム(「地政学リスクの高まりで浮き彫りになるイールドカーブ・コントロールの欠点」(2017年8月14日)でも指摘したように、この枠組みの大きな欠点の一つは、プラスあるいはマイナスの経済ショックが生じた際に、それをむしろ増幅してしまうことだ。これは、金融政策に本来求められる経済の安定回復という役割に、全く逆行してしまうものなのである。

大きな外的ショックで枠組み見直しが強いられる

経済ショックが生じた際には、このようにイールドカーブ・コントロールが抱える矛盾が浮き彫りになる、という点にとどまらず、制度自体が現在の形では維持できなくなる可能性もあるだろう。この制度が1年間持ちこたえることができたのは筆者にはやや意外であったが、それはこの制度の脆弱性を明確に浮き彫りにするほどの大きなショックが、この間には幸いにも生じなかったということだろう。

例えば、北朝鮮問題などの地政学リスクの高まりは、世界的にリスク回避の傾向を強め、国債利回りを押し下げる。この際、イールドカーブ・コントロールを導入した日本銀行は、国債買入れ増加ペースを縮小することで、長期金利を目標値に維持するような操作を行うことを強いられる。これは、実質長期金利の上昇を通じて、金融引き締め効果を生じさせてしまうだろう。また、内外長期金利差の縮小は円高・株安を促し、追加的な景気抑制効果を発揮するのである。

さらに、このようにして景気悪化懸念が市場に浮上すれば、長期金利には追加的な下落圧力がかかる。それに対して、日本銀行は国債買入れ増加ペースを一段と縮小することで、長期金利を目標値に維持しようとするが、これは市場に供給する流動性の増加ペースを縮小させる、金融緩和強化の縮小策になってしまうのである。それが経済に与える悪影響が意識されれば、長期金利にはさらに下落圧力がかかるだろう。それに対して、日本銀行がさらに国債買入れ増加ペースを縮小させる・・・。このようなエンドレスの状況が生じて、長期金利目標が維持できなくなる可能性がある。

長期金利目標を短期化するのも選択肢に

このように、ひとたび大きな外的ショックが生じれば、イールドカーブ・コントロールは今の形では維持できなくなる。その際に、筆者が提案してきた廃止よりも、実施のハードルが低いのが、長期金利目標を短期化するという制度の見直しである。

現在、長期金利の目標は10年に設定されているが、これを5年、2年などへと変更する、あるいは段階的に変更していくことで、制度の存続可能性を高めることが可能である。長期金利の目標を短期化することは、金利目標を維持することをより容易にすることに加えて、国債買入れ増加ペースについてのコントローラビリティも高めることができるのである。

制度見直しで事実上の正常化

重要なのは、長期金利の目標を5年、あるいは2年へと変更しても、目標金利の水準を0%程度に維持すれば、それは政策変更ではないと日本銀行は主張することができるのである。そして、「2%の『物価安定の目標』の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで、『長短金利操作付き量的・質的金融緩和』を継続する」という従来からの政策方針に反することはなく、事実上の正常化を進めることができるのである。その際には、「銀行貸出などを通じて経済活動により大きな影響を与える短期・中期に金利目標を移すことで、金融政策効果を高めることができる」などといった説明をすれば良いだろう。

ただし、長期金利の目標の短期化は、日本銀行が買入れ保有する国債の平均残存期間を縮小させるが、これはイールドカーブにスティープ化の圧力をもたらす、事実上の金融緩和効果の縮小策であり、正常化策なのである。

金利目標短期化のメリット

事実上の正常化である金利目標短期化には、従来の金融政策によって蓄積してきた副作用を軽減させる、あるいは潜在的な副作用が顕現化するリスクを軽減させる、という大きなメリットがある。以下ではそれについて、5点を挙げておきたい。

第1に、国債買入れ増加ペースを一段と縮小させることを可能にし、日本銀行の国債買入れ策の持続性を高める。筆者は、年間60兆円程度という現在の長期国債買入れペースが維持された場合には、来年半ば頃にも買入れは限界に近づき、国債の流動性を極度に低下させることで国内金融市場の混乱を生じさせてしまうリスクがあると考えている。それは海外にも波及し、グローバルな金融不安の引き金になってしまう可能性もあるだろう。この措置によって、そうしたリスクを軽減させることができるのである。

第2に、長期、超長期の金利が上昇する形で、イールドカーブをスティープ化させることになる。これは金融機関の収益を改善させ、金融仲介機能の回復を助けるだろう。

第3に、日本銀行が保有する国債の平均残存期間が縮小すると、将来、償還見合いで国債保有残高を削減させ、バランスシートを正常化させる際に、それに要する時間を短くすることができる。

第4に、正常化の過程では、日本銀行が付利金利を引上げることを通じて、日本銀行の収益が大きく悪化するが、日本銀行が保有する国債の平均残存期間が縮小すれば、その場合に、低金利の国債をより高い金利の国債に迅速に置き換えることで日本銀行の利子収入が早期に高まり、収益の悪化を軽減することができるのである。

第5に、将来の正常化も視野に入れると、短めの長期国債の利回りの安定確保は、保有国債の平均残存期間がそれに概ね対応する銀行、とりわけ地域銀行の財務の安定維持に貢献する。


大きな外的ショックによってイールドカーブ・コントロールを今の形で維持するのが難しくなることがきっかけとなるのか、あるいは先行きの副作用の顕現化に先手を打つ形で日本銀行が自発的に行うのか、どちらのケースもあり得ようが、事実上の正常化であるイールドカーブ・コントロールの見直しは、非常に有益であると筆者は考えている。

Writer’s Profile

木内登英Takahide Kiuchi

エグゼクティブ・エコノミスト

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