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日銀・ECBの分散型元帳技術(DLT)の共同調査

2017年09月08日

日本銀行とECBが分散型元帳技術(DLT)の共同調査の結果を公表

日本銀行と欧州中央銀行(ECB)は、2016年12月に分散型元帳(distributed ledger)技術(DLT)の金融市場インフラへの応用可能性を共同で調査することを合意した。その調査結果の一部が、2017年9月6日に初めて公表されたのである(注1)。ここでは、有意義な調査、研究結果が示されている。

分散型元帳技術では、ビットコインに用いられている「ブロックチェーン」が広く知られている。これは、金融資産や金融取引など価値の移転のデータを記録するための技術であるが、それが第3者機関(中央機関)を経由せずに、つまり中央集権的なインフラなしに行われる点に最大の特徴がある。分散型元帳技術では、ネットワークでつながれた複数のコンピュータが、取引の検証、更新を行っているのである。

中央銀行はなぜ分散型元帳技術(DLT)を研究するのか?

このように見ると分散型元帳技術(DLT)は、中央銀行が担っている既存の中央集権的な決済システムに挑戦している面があり、敵対するような技術を中央銀行が真剣に研究しているのもおかしい感じもする。

しかし中央銀行は、銀行券、中銀当座預金、大口決済といった金融インフラを自ら提供している一方、民間が提供する金融インフラを監督する機能も担っている。それらを通じて、支払・決済システムの頑健性、安定性、効率性をしっかりと維持し、通貨の信認を保つ、という重要な社会的役割を果たすことが求められているのである。この観点から、頑健性、安定性、効率性を高める新しいイノベーションを常に精査し、必要に応じて導入していくことが適切なのである。

DLTのメリット

一般に、DLTのメリットは以下のように考えられている。第1に、複数の参加者で台帳が共有されるため、参加者全てのコンピュータ(ノード)が停止しない限り、システムダウンは生じない、つまりシステムダウンに強いという頑健性がある。

第2に、参加者全てのコンピュータ(ノード)で同一の取引台帳が共有されることから、取引記録の改ざんを行うのが困難、あるいは少なくとも大きな時間とコストが必要となる。つまり、改ざんが起きにくいシステムであると言える。

第3に、低コストでの台帳管理が可能である。

"Project Stella"の成果

日本銀行とECBによるDLTの共同調査は、"Project Stella"と称されている。今回発表された調査では、それぞれが運営する即時グロス決済システム(RTGS:real-time gross settlement)、つまり「日銀ネット」と「TARGET2」で、DLTが試されているのである。その主な調査結果は、以下のように要約される。

①日銀ネットとTARGET2の双方において、平時あるいはピーク時の取引量のケースで行なった実験では、既存のシステムと同等の処理速度が得られた。
②参加者(ノード)数を増加、あるいは参加者(ノード)間の距離を拡大させると、処理時間が長くなる傾向が生じる、あるいは一部の参加者(ノード)が、取引処理に参加しないことが確認された。
③取引を検証する参加者(ノード)における障害や誤った取引指図といった問題に対処できる可能性を持っていることが確認された。

さらなる調査・研究に期待

日本銀行とECBは、既存の日銀ネットとTARGET2でDLTを利用する考えはないことを強調している。DLTは技術として十分成熟しておらず、現時点では日銀ネットとTARGET2のような大規模なシステムへの応用には適さない、と結論付けているのである。

しかしDLTが、金融インフラの頑健性、安定性、効率性を高める可能性を見出す調査、研究は今後もさらに続けられる。中央銀行間で適宜連携しながら、各中央銀行がこの新しい技術の調査、研究をさらに強化、発展していくことを期待したい。


(注1)「Project Stella:日本銀行・欧州中央銀行による分散型台帳技術に関する共同調査報告書」

Writer’s Profile

木内登英Takahide Kiuchi

エグゼクティブ・エコノミスト

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