1. HOME
  2. ナレッジ&インサイト
  3. 研究員の時事解説
  4. 木内登英のGlobal Economy & Policy I…
  5. 地政学リスクと中央銀行の流動性供給強化

地政学リスクと中央銀行の流動性供給強化

2017年09月07日

イールドカーブ・コントロールが抱える矛盾

既に本コラム(「地政学リスクの高まりで浮き彫りになるイールドカーブ・コントロールの欠点」2017年8月14日)で指摘したように、足もとでの北朝鮮を巡る問題のような地政学リスクの高まりに対して、「イールドカーブ・コントロール」という枠組みのもとでは、日本銀行は緩和度合いをむしろ縮小させることを余儀なくされ、それが円高・株安傾向を促して、経済の下方リスクを高めてしまう可能性がある。これが、「イールドカーブ・コントロール」が抱える大きな欠点であり、また矛盾でもある。外的ショックによって、こうしたイールドカーブ・コントロールの欠点がより明らかになることで、導入から間もなく1年を迎えるこの枠組みは、いずれ撤廃、あるいは大幅に見直されるものと筆者は考えている。

地政学リスクの高まりには流動性供給拡大が重要

ところで、地政学リスクの高まりに対して、日本銀行はどのような対応を検討しているのであろうか?北朝鮮情勢の行方は依然明らかではないが、その経済に直接与える影響というよりも、金融市場に与える影響、またそれを通じて金融機関の経営に与える影響を現時点では最も注目しているのではないか。

この点から、事態は昨年6月の英国EU離脱の国民投票(ブレグジット)前に似ているのかもしれない。金融市場ショックの性格が強かったと考えられる英国EU離脱ショックに対して、金融当局がまずとるべき対応策は、金融市場の流動性低下が、①金利上昇など市場価格のボラティリティを過度に高めること、さらに、②金融機関の経営に打撃を与えること、等を回避するために、流動性を潤沢に供給することであった。

イングランド銀行(BOE)は、国民投票に先立って予防的に臨時オペで市中銀行に資金供給を実施し、さらに国民投票の結果が明らかになった直後には、追加で2,500億ポンド(約35兆円)以上の巨額の資金を供給する用意があるとアナウンスしたのであった。

重要なのは外貨の供給拡大

イールドカーブのもとでは、地政学リスクの高まりを受けて国内長期金利に下落圧力が掛かれば、日本銀行は国債買入れの増加ペースを縮小させて、金利低下を抑えるオペレーションを強いられることになる。これは、日銀当座預金の増加ペースを縮小させることになり、流動性供給の拡大には逆行してしまう。しかしより重要なのは、既に潤沢な円貨ではなく外貨の供給であろう。

中央銀行間スワップ協定に基づくドル供給の枠組み

グローバル金融危機の際には、欧州の銀行を中心にドルの調達に大きな支障が生じたことを受け、主要中銀は緊急時に自国の金融機関に対して外貨の供給を実施できるよう、スワップ協定を締結している。時限措置として始まった同協定は、2013年10月には常設の枠組みとなり、現在は6中央銀行がそれぞれ他の中央銀行との間で、5つの外貨をスワップで調達できる体制が確立されている。日本銀行については、米国とのドルスワップ協定に基づき、国内の金融機関に対してドルを定期的に供給する国内のオペレーションの枠組みがある。

グローバル金融危機の経験を踏まえて成立したこのドル供給の枠組みは強力であることから、地政学リスクの高まりが金融市場を動揺させる場合でも、深刻なドル調達問題は、容易には生じないものと考えられる。

ドル供給強化策の選択肢

しかし、地政学リスクが非常に高まる局面では、こうしたドル供給の体制も万全ではなくなるかもしれない。その場合には、供給を強化する余地が残されている。

同枠組みは緊急時に備えたバックストップの枠組みであるため、通常は金融機関の自助努力によるドルの安定調達を促す観点から、試験的な利用にとどめるよう、日本銀行は金融機関に働きかけているものとみられるが、ドル調達の環境が明確に悪化する場合には、同枠組みを利用することに日本銀行はより寛容、あるいは利用を積極的に促すことになろう。

また現時点では、週1回の入札で、原則1週間程度のドル資金を供給する枠組みとなっているが、その基本要領(注1)では貸付期間について、「金融市場の情勢等を勘案して貸付けのつど決定する3か月以内の期間とする」と定められているだけであり、政策委員会の議決を経て同基本要領を改定することなく機動的に、より頻度高く、またより長期間、ドルを金融機関に供給することもできる。またこの枠組みは、共通担保の範囲内で無制限の金額で利用が可能である。


(注1)米ドル資金供給オペレーション基本要領

Writer’s Profile

木内登英Takahide Kiuchi

エグゼクティブ・エコノミスト

この執筆者の他の記事

木内登英の他の記事一覧

注目ワード : マイナス金利

このページを見た人はこんなページも見ています