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サプライズ政策の問題点と透明性強化の重要性

2017年09月06日

金融政策の予見性低下

2013年4月の「量的・質的金融緩和」導入以降は、日本銀行の情報発信と政策対応が金融政策の予見性を大きく低下させてしまい、それが市場のボラティリティを高め、経済にも多少なりとも悪影響を与えた局面もあったと考えられる。

2014年10月の「量的・質的金融緩和」の拡大策や2016年1月の「マイナス金利政策」の導入決定は、その実施時期や内容について、金融市場に強い意外感を生じさせるように狙って実施された、言い換えれば「サプライズ」を演出することで金融市場を大きく動かすことを狙ったもの、との見方をする向きは少なくなかった。

その真偽はともかくとしても、金融市場にそのような観測が浮上した結果として、日本銀行はどのタイミングでどのような政策を実施するか予想できない、もはや先行きの政策を予見するのは難しい、信用できない、といった状況が生じたのである。これは、日本銀行が金融市場との対話に失敗した状態と言えるのではないだろうか。さらにその結果、金融政策が金融市場の大きな不確定要因となり、それが金融市場の潜在的なボラティリティを高めてしまった面もあったように思われる。

法的側面における「透明性」強化の重要性

近年、主要国の中央銀行は、政策に関する市場との対話を重視し、「透明性」の強化を強く進めてきた。「透明性」強化の具体的な手段は、経済・物価見通しの定期的な発行、総裁・議長による定例記者会見の実施、政策決定に関わる議事録あるいは議事要旨の公表など、多岐にわたる。この「透明性」の強化は、中央銀行の独立性と一体のものとして中央銀行に要請されているもの、という法的側面がある。日本では、国民に直接選挙で選ばれてはいない政策委員が、大きな権限を付与されて金融政策運営に携わっているため、日本銀行には丁寧な情報発信を通じて「透明性」を強化することで、政府、国会、あるいは国民の目が十分に行き届くようにする、との考え方がある。こうした点は、日本銀行法の第3条(注1)が、日本銀行の自主性の尊重と透明性の確保を同時に謳っていることからも明らかである。

これは日本に限ったことではない。元FRB(米連邦準備制度理事会)副議長のブラインダー氏は、「広範囲で、かつ事実上ほかの機関から牽制を受けない権限を委譲された見返りとして、中央銀行は議会および国民に対して、自らの決定およびその理由について完全かつ正直に説明する責任を負っている」と説明している。

経済的側面における「透明性」強化の重要性

一方、法的観点ではなく、金融政策効果という観点からこの「透明性」強化の重要性を捉えると、政策決定のプロセスや考え方を金融市場など民間部門に丁寧に説明することで、金融政策に対する信認を高めることができる。それとともに、中央銀行と民間部門との認識ギャップを埋めることが、先行きの金融政策に対する不確実性を低下させ、あるいは予見性を高めることを通じて、金融市場の安定に貢献すると考えることができるだろう。さらに金融市場の安定は実体経済に好影響をもたらすことから、この「透明性」強化は、こうした経路を通じて金融政策の効果を高めるツールにもなるのである。

市場との対話の失敗の問題点

こうした点を踏まえると、日本銀行と金融市場との間での対話の失敗は、政策効果を減じてしまうリスクも包含しているのは明らかであろう。金融市場に意識的にサプライズを与えるような政策手法は、為替介入策であればともかくも、金融政策では決して妥当でない。政策変更時にいわゆるサプライズ演出が奏功して、円安、株高などが生じれば、一時的に経済にプラスの効果を与え、政策効果を高める、との考えもあろう。しかし多少長い目で見た場合には、政策効果は変わらないのである。

一方で、そうした戦略が、既に述べたように市場のボラティリティを高めてしまう場合には、むしろ政策効果を減じてしまう可能性があるというマイナス面を十分に認識しておく必要があるのではないか。ただし、こうしたマイナス面を理解したために、1年前の総括的検証、イールドカーブコントロール導入以降は、日本銀行は「サプライズ戦略」を封印した、との見方が金融市場で一般的となっていることも確かである。


(注1)日本銀行法(日本銀行の自主性の尊重及び透明性の確保) 第三条 日本銀行の通貨及び金融の調節における自主性は、尊重されなければならない。 2 日本銀行は、通貨及び金融の調節に関する意思決定の内容及び過程を国民に明らかにするよう努めなければならない。

Writer’s Profile

木内登英Takahide Kiuchi

エグゼクティブ・エコノミスト

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