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国内債券市場の流動性

2017年09月05日

国内債券市場の機能度はかなり低下した状態

9月1日に日本銀行は、「債券市場サーベイ(2017年8月調査)」を公表した。これによると債券市場の機能度判断DIは「-45」と、前回5月調査と同水準となった。さらなる悪化には歯止めがかかったとはいえ、国債市場の機能度に関する市場参加者の評価は厳しく、流動性がかなり低下した状態であるとの判断が示されている(図表1)(注1)。


「債券市場サーベイ」とは

日本銀行は、「金融市場の動向や機能度、日本銀行の各種資産買入れなどのオペレーションが市場に及ぼす影響などについて注意深く点検するとともに、市場参加者との対話を一段と強化していく(注2)」ことを目的に、2015年2月から、国債売買オペ先を対象にした「債券市場サーベイ」を四半期毎に実施し、公表している。

これは、①債券市場の機能度の状況と②長期金利の先行き見通し、の2部構成の質問と回答からなっており、前者については、さらに(1)債券市場の機能度、(2)債券市場の機能度・流動性に関する各論、からなるが、(2)の回答内容等を総合的に勘案して、(1)を回答することが求められている。(2)の具体的な質問内容は、①ビッド・アスク・スプレッド、②市場参加者の注文量、③取引頻度、④取引相手数の変化、⑤取引ロット(1回あたりの取引金額)、⑥意図した価格での取引、⑦意図したロットでの取引、となっている。(1)の質問は債券市場の機能度についての質問となっているが、各論である(2)の質問内容を見ると、ここでいう「機能度」とは主に「流動性」のことを意味していることが分かる。

機能度の判断は、「高い」、「さほど高くない」、「低い」の3段階のそれぞれの回答構成比のうち、「高い」から「低い」を引くことで算出されるDI(Diffusion Index)で示されている。

機能度判断DI(現状)は、国債市場が不安定化していた初回の2015年2月調査から次の同年5月調査にかけては改善したが、「マイナス金利政策」導入で国債市場が再び動揺した2016年2月調査では大幅に悪化し、その後悪化傾向を辿っているのである(図表1)。

債券市場の安定と債券市場参加者の認識とのギャップ

このように、債券市場参加者が認識している、債券市場の機能度、流動性はかなり低下した状態にある。しかし一方で、実際の債券市場は比較的安定した取引がなされているようにも見える。市場流動性が高い状態を、「大口の取引を小さな価格変動(ボラティリティ)で速やかに執行する能力が市場にあること」というBIS(国際決済銀行)の定義に照らせば、流動性の低下した状態とは、取引によって価格の変動がかなり大きくなっている状況、と考えられるが、実際にはそうはなっていない。

両者のギャップは、債券市場参加者が、必ずしも顕在化していない潜在的な債券市場の流動性の低下を認識している、ということから生じているのではないか。

「縮小均衡」の状態に陥っている可能性

これらの意見が意味するのは、国債市場の流動性・機能度は、「マイナス金利政策」の導入あるいは「イールドカーブ・コントロール」の導入によって一段と低下したが、一方で取引に大きな混乱が依然生じていないのは、①民間の取引が低調となり、いわば「縮小均衡」の状態に陥っている点、②当局が、混乱が生じないように慎重なオペレーションを行っている点、などに助けられている面があるということだろう。

しかし、国債市場の流動性・機能度が潜在的に低下し、価格発見機能も失われたもとで、ひとたび想定外のショックが起きれば、市場のボラティリティの大幅な上昇が生じるリスクを、市場参加者は強く警戒している。

このように潜在的な国債市場の流動性・機能度の低下を理解、把握するためには、従来用いられてきた伝統的な指標(国債先物市場のビッド・アスク・スプレッドや値幅・出来高比率など)からさらに範囲を広げて、より多様な指標、情報に注目することが重要なのである。

「債券市場参加者会合」

こうした観点から、日本銀行は、「債券市場サーベイ」を有益に活用し、市場参加者との対話を一段と強化する場として、「債券市場参加者会合」を2015年6月から始めており、その後合計で5回開催されている。そして、先ほど述べた債券市場の状況と債券市場参加者の認識とのギャップの理由については、最新5回目(2017年6月)の議事要旨の中の以下のような参加者の発言に、その答えを見出すことができるのである。

  • ボラティリティの低下は、一見機能度改善にも見えるが、実際には取引量の減少や既存の市場参加者の退出という形で機能度の低下に繋がっている。
  • 現在の市場は、日本銀行のコントロールの下で安定しているが、金利水準もボラティリティも極端に低い市場環境の下で、これまでの日本国債のプレーヤーが市場から退出するなど、参加者層が薄くなっている。
  • 債券市場サーベイの結果をみると、市場の機能度・流動性は「低水準・横這い」であるが、日を追うごとに厳しい状況に陥っているというのが実情である。金融政策の目的が物価安定目標の達成であることは理解しているが、市場の機能度にも配慮してほしい。

  • (注1)短観調査にならって「高い」、「さほど高くない」、「低い」の3つの回答が設定されたとみられるが、回答比率が最も大きい「さほど高くない」の判断が回答者によって「高い」に近いか「低い」に近いか、ばらつきがある可能性があることが、この調査の解釈をやや難しくしている面もあると考えられる。
    (注2)日本銀行金融市場局「市場参加者との対話の強化に向けた取り組みについて(2014年11月5日)」

Writer’s Profile

木内登英Takahide Kiuchi

エグゼクティブ・エコノミスト

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