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18年度予算概算要求と財政規律の緩み

2017年08月31日

膨らむ各省庁の概算要求

2018年度予算の概算要求が、各省庁から出されている。要求総額は101兆円規模になったとみられ、4年連続で100兆円を超える。社会保障関連や公共事業関連などで特に増額が目立っているが、前者は、高齢化などを背景にした自然増で6,300億円の積み増し、後者は前年度予算比16%増加となっている。

概算要求の水準が高まっている背景には、2020年度のプライマリーバランス(基礎的財政収支)黒字化目標の達成が困難になり、その達成に向けた求心力が低下しているなか、政府内で経済政策として財政支出への期待が再び高まっていることがあるのではないか。

さらに、財務省が概算要求で、国債の利払い費を計算する際に用いる想定金利を1.2%と、前年度の要求段階での1.6%から一気に0.4%引き下げたことも背景に挙げられる。この結果、国債の元利払いに充てる国債費は、要求ベースで前年度比7,960億円減少することになった。その分、他の歳出を増加させる余地が生まれるとの考えが、概算要求の増額を後押ししている面もあるだろう。

金融緩和が財政規律を緩める

一般に、金融緩和策では、財政に余裕を生じさせ歳出増加を促すことが、その副次的な景気刺激効果として考えられている。第1に、金融緩和による金利低下分だけ国債費が節約でき、その分他の歳出増加が可能になるという経路である。第2に、中央銀行の国債買入れ策では、政府から中央銀行に対する国債利払いは、納付金として政府歳入に再び戻ってくるため、利払い費が節約され、その分、他の歳出増加が可能になるという経路である。

ところで、国債の利払い費を計算する際に用いる想定金利については、年度内に金利が上昇するリスクに配慮して、保守的に市場実勢よりもかなり高めに見積もっておくのが通例であった。ところが、1年前と比較して国債利回りの水準に大きな変化がない中で、財務省が今回想定利回りを一気に0.4%も引き下げたことには違和感を覚える。これは、日本銀行が大量の国債買入れを続け、また「イールドカーブ・コントロール」を維持している限り、金利上昇のリスクは小さい、との判断を反映していると見るのが自然なのではないか。

しかしこうした考えは、金融政策が物価安定を最大の使命とすることを放棄して、国債管理政策に協力するという、財政ファイナンスあるいは「ヘリコプターマネー政策」の考え方に近いものである。日本銀行がこうした考えをいくら否定しても、そうした考えに基づいて財政規律が実際に緩んでいるのであれば、それは既に「ヘリコプターマネー政策」になっている、とも言える。さらにそれは、潜在的な財政リスクを高め、将来的な国債市場の混乱の温床ともなろう。

「今こそ超低金利のメリットを活かして」、は誤り

「超低金利のメリットを活かして」、今こそ財政拡大を実施すべき、との主張もしばしば聞かれるところである。しかし民間の設備投資の決定などとは異なり、政府支出はその足元の調達コストとの見合いで決定されるべき性格のものではない。あくまでも、国民の利益、社会公正の観点から決定されるべきである。

他方、同額の資金調達であっても、それを比較的短期の国債発行で賄うのか、比較的長期の国債発行で賄うのか、という選択はあるだろう。現在が金利水準の底であると考えれば、できるだけ長期の国債発行で資金を調達し、利払い費を長期間固定化した方が得策であるようにも思える。しかし、長期金利が先行きの短期金利の見通しの平均値に一致するという、「金利構造理論」の考え方に従えば、トータルの利払い費の期待値は、発行する国債の償還年限には影響されないことになる(中央銀行の国債買入れ策によって長期国債の利回りが歪められ、金利構造理論が成立していない、との考えはあろうが)。

さらに既に説明したように、政府が新規に発行する長期国債とほぼ同額の長期国債買入れを日本銀行が実施しており、さらにそれを長期間保有するとの見方が強い中では、新規発行された国債に対する政府の利払い費の多くは、日本銀行の国庫納付金という形で政府に戻ってくるのである。つまり、政府に追加的な利払い負担はそもそも生じなくなっている。こうした環境下では、低金利のうちに財政支出を拡大し、その資金を国債発行で賄うことが合理的である、との主張は成り立たない。

「超低金利の今こそ」、「今の超低金利のメリットを活かして」、国債発行増額による財政支出拡大を実施すべきという主張は、合理的根拠を欠いたプロパガンダのようなものと言えるのではないか。

Writer’s Profile

木内登英Takahide Kiuchi

エグゼクティブ・エコノミスト

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