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相次ぐ値下げと消費行動の変化

2017年08月30日

値下げの秋

日本の小売業界で、値下げを動きが俄かに広がり出した。イオンは、8月25日からスーパー2800店舗で、PB(プライベートブランド)「トップバリュ」の食品や日用品114品目を値下げした。値下げ幅は平均で10%程度だという。同社は今年3月、4月にも値下げを実施している。さらに昨年秋にも値下げを行っており、秋と春で合計520品目の値下げとなったという。日本経済新聞の報道によれば、イオンは値下げの背景について、「低価格への意識が強い消費者のニーズに応えるため」、「インフレターゲットを意識しながら価格を決める小売業はない。我々は顧客のニーズだけを見ている」と説明しているという。

スウェーデン発祥の家具チェーン「IKEA(イケア)」の日本法人は8月24日に、人気のソファなど全商品の1割近くにあたる886商品を平均22%値下げすると発表した。家具業界ではニトリも、今年3月に約300品目を最大で約3割値下げしている。

紳士服大手の青山商事は、カジュアル衣料品店「アメリカンイーグル」で衣料品の約4割を値下げした。品目数はジーンズなどを除く衣料品約200品目、値下げ幅は10~25%である。同店が大規模に値下げするのは初めてだという。また無印良品も、秋冬シーズンの衣料品約110品目を順次値下げするという。

PB(プライベートブランド)の値下げに注目

こうした相次ぐ値下げの動きの中で、イオンのPB(プライベートブランド)の値下げに注目してみたい。NB(ナショナルブランドの商品とは異なり、PBは小売店側が自由に価格を設定できる商品であり、一種の独占市場である。NB商品であれば、全体の需給バランスで価格が決まることから、それよりも高い価格を設定すれば全く売れなくなってしまう。この場合、小売店は世間で決まっている価格を受け入れる「プライステイカー」となる。ところがPBでは、小売店は「プライスメイカー」になれるのである。

その場合でも、それぞれの価格に応じた売り上げ数量は、消費者の需要曲線に従って決まる。他方で、小売店はメーカーにPBの製造を依頼することを通じて、全体の生産数量、販売数量も自由に決めることができる。そこでPB商品の小売店は、自らが決定する価格と、そのもとで需要曲線に基づいて決まる売り上げ数量を掛け合わせた売上高が最大となるように、常に価格を設定することができるのである。

消費需要曲線が短期間で変化した可能性

このように、PB商品の販売者が常に売上高が最大となる価格設定を実施するのだとすれば、その価格変更は、販売者側の戦略変更というよりも、消費側の行動変化、つまり消費需要曲線の変化によって生じることになるのだろう。イオンが、今春に実施したばかりのPBの値下げを、僅か半年足らずのうちに再び実施したということは、ごく短期間のうちにPBの消費需要曲線が変化した可能性を示唆しているのではないか。

PB商品について、縦軸を価格、横軸を売り上げ数量とし、さらに需要曲線を右下がりの線形(直線)であると考えよう(図表1)。そのもとで小売店は、価格と売上数量を掛け合わせた長方形部分の面積が最大となる箇所に、価格を設定する(注1) 。需要曲線上のその位置が、当初は「A」であったと考える。
次に需要曲線がシフトした際に、この長方形の面積が最大となる点が「B」に移ったと考える。この場合には、売上数量、価格ともに低下した点が、新たに売上高が最大となる点になる。

一般には、消費者が価格に対してより敏感になる(価格弾性値が高まる)と小売店は値下げを余儀なくされると言われる。この需要曲線で考えれば、マイナスの傾きがより緩やかになるという変化が、それを意味していよう。ただし需要曲線をこのように線形とした仮定した場合には、需要曲線が変化して新たに売上高を最大化する点に移った場合に、そこで売上高を最大化する均衡価格が以前の価格を下回るのは、需要曲線と縦軸との切片が低下する(下方シフト)ことが条件であり、需要曲線の傾きは影響を与えないことになる。

もちろん、線形でない需要曲線の場合には、曲線の傾きがフラット化することが、均衡価格の下落に繋がることもあるだろうが、あくまで線形の需要曲線を仮定すれば、先行きの所得環境を厳しく見る、あるいは株価下落の逆資産効果などを背景に、消費者が同じ価格のもとでより商品の購入量を減らすという需要曲線の下方シフトこそが、値下げの条件となる。

消費全体の需要曲線全体について、このような変化が短期間のうちに生じ、PB商品の需要曲線にも同様な変化が短期間のうちに生じたのかもしれない。


(注1)需要曲線をY=aX+b(Y:価格、X:数量、a:需要曲線の傾き(マイナス)、b:Y軸との切片)とする時、売上高が最大となるXの値は-b/(2a)、Yの値は+0.5bとなる。

Writer’s Profile

木内登英Takahide Kiuchi

エグゼクティブ・エコノミスト

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