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欧州銀行の不良債権と欧州バッドバンク構想

2017年08月28日

<要旨>
欧州の銀行が抱える不良債権は、比率は低下傾向を辿っているものの、そのペースは依然緩やかである。不良債権処理の遅れが銀行経営の足かせとなっており、経済にも悪影響を与えている。こうしたなか、欧州銀行監督機構(EBA)は、不良債権を売買する流動性の高い流通市場を、当局の強い関与のもと欧州レベルで創設する、欧州AMC(Asset Management Company)構想を打ち出した。これは「汎欧州バッドバンク構想」とも呼ばれている。ECBやドイツはこれに慎重であるが、投資家のニーズを十分にくみ取る形で、欧州に不良債権の流通市場を作り出すことを目指す意義は大きい。欧州銀行、各国政府、金融当局は、経済環境の改善を通じて資産の質を高めるとともに、売り手と買い手との間の情報格差を縮小し、また市場の流動性を高めることを通じて、売買される不良債権の適切な価格形成がなされるように努めることが重要である。

不良債権問題が依然欧州銀行の経営の足かせに

2008年のグローバル金融危機直後には、欧州の銀行にとって、自己資本の充実こそが喫緊の課題になっていた。しかし近年では、この点では明確な改善傾向が見られており、CET1(普通株式等Tier1)比率は、2011年の約9%から2016年9月には14.1%まで上昇している(EBAによる)。

他方、欧州の銀行が抱える不良債権は約1兆ユーロ規模であり、不良債権比率は2014年末の6.5%から2016年末には5.1%と低下傾向を辿ってはいるものの、そのペースは依然緩やかである(図表1、図表2)。その結果、多額の不良債権が欧州銀行の経営の足かせとなる状況が依然続いているのである。不良債権の保有に伴う資本効率の低下が銀行貸出を抑制し、経済に悪影響を与えている面もあるだろう。



不良債権の流通市場の未整備

欧州銀行監督機構(EBA)は、EU域内での不良債権処理を促す観点から、不良債権の定義の統一や資産査定の統一的な基準の確立を、2014年以降進めてきた。それでも不良債権処理が加速しない背景には、不良債権を売買する流動性の高い流通市場が存在しないことがあった。EBAはその理由として、不良債権の売り手と買い手の間の「情報の非対称性」があり、その結果、市場メカニズムに基づく売買が成立しにくいという、「市場の失敗」があると考えたのである。

こうした問題意識に基づき、欧州での銀行の不良債権処理を進めるためには各国のバラバラな対応や民間ベースの取り組みに任せていては不十分であり、EUレベルでの当局の強い関与が必要とEBAは考え、汎欧州での不良債権買取り機関であるEuropean AMC(Asset Management Company)の創立を2017年年初に提案したのである。メディアでは、これを「汎欧州バッドバンク構想」などとも呼んでいる。EBAのAndrea Enria議長は、この構想を1月末の講演会で紹介している(注1)。

AMC(Asset Management Company)構想の概要

EBA が示すAMC(Asset Management Company)構想の概要は、以下のようなものである(図表3)。

①AMCはまず公的資金によって資本調達したうえで、残りを民間からの投資で設立する。
②加盟国各行の不良債権比率に一定の閾値を設定し、それを上回る部分をAMCに売却させる。
③AMCは、不良債権を経済価値(real economic value:将来流動性の高い市場で形成される妥当な債権価格の想定値)で買入れる。この際の経済価値(図表3の例では40万ユーロ)と貸倒引当分を除いた実質簿価(60万ユーロ)の差(20万ユーロ)が、不良債権の売却時に当該銀行に生じる売却損となる。
④AMCが買い取った不良債権が、一定期間経過した後に、経済価値を下回る価格での売却を余儀なくされた場合には、その売却損は、元々の債権者であった銀行が負担する(claw-back mechanism)。
⑤銀行はAMCに不良債権を売却する時点で、所在国政府に対してワラント(新株予約権)を発行し、上記で生じる損失により資本不足に陥ることを回避する。これは各国政府による公的資金注入に他ならない。
⑥上記の仕組みにより、AMCの資本は毀損せず、損失発生に対する加盟国間での負担シェアリングは発生しない。


ECBはAMC構想に否定的

他方、欧州中央銀行(ECB)のコンスタンシオ副総裁は2017年2月に、欧州レベルでのAMC創設に否定的であり、各国レベルで創設されるAMCあるいはバッドバンクが望ましいとの主旨の発言をした。

既に見たように、AMCが不良債権を売却する際に生じる損失は、元々の債権者であった銀行が負担することになり、またその結果生じうる銀行の資本不足は、当該政府による公的資金注入によって解消される仕組みとなっている。それでも、他の加盟国の負担にいずれ繋がる可能性を警戒していることが、AMC創設に慎重な同氏の意見の背景にはあろう。また同氏は、「証券化も不良債権の市場を活性化できる方策の1つになるかもしれない。例えばジュニアやメザニントランシェに民間投資家と共同投資することなどが考えられる」とも発言している(注2)。

2017年5月にECBが発表した「金融安定報告(Financial Stability Review)」では、民間投資家と各国政府が共同で不良債権を買い取る枠組み(“Co-investment Strategy”)や証券化の手法の活用を通じて欧州の不良債権処理を加速させる考えが示されている(注3)。

またドイツも、欧州レベルでのAMC創設には否定的である。その理由として、不良債権比率が高い国はイタリアやキプロス、ポルトガルなど一部の国に限られるため、当該国での対応が妥当であるとの考えを示している。

欧州レベルでのAMC創設

ECBやドイツによる懐疑的な見方は理解できるものの、それでも各国ではなく欧州レベルでのAMC創設の利点はあるものと考えられる。

第1に、不良債権比率は高くなくても、不良債権が巨額である国も多い。例えばドイツ、フランス、オランダの3か国の銀行が抱える不良債権はEU全体の約4分の1に達する。その処理を進めることは、当該国、あるいはEU全体にとっても有益である。

第2に、逆に不良債権比率が高い国の不良債権総額は、投資家の関心を引き付けるのに十分な規模に達していない。不良債権を購入する投資家の観点からは、対象となる不良債権が相当規模であることや、多くの国の不良債権で構成されていることから分散投資が容易になることが、投資の魅力を高めることになろう。

第3に、欧州レベルでのAMC創設によって、不良債権の売買について、各国政府から運営上の独立性がより確保されることになり、投資家からの信認に繋がる面がある。

さらに、EBAは、このAMCを既存の不良債権(legacy non-performing loans)だけでなく、景気後退や金融危機の再発を受けて将来に発生する不良債権の処理にも積極的に活用する考えのようである。

AMC創設を巡る議論が先行きどのように展開するかは、現時点ではまだ不確実であるが、欧州での不良債権処理が今まで緩やかにしか進んでこなかったことや、不良債権問題がイタリアを中心に依然として深刻な問題であることなどを踏まえると、EBAの主導によって、欧州レベルで不良債権の流通市場を創設していく試みは意義深いと思われる。

米国投資家が欧州不良債権買取りを積極化

ところで、米国の運用会社は、高利回りの欧州不良債権への投資を積極化させている。例えばAnaCapというプライベートエクイティ・グループは、イタリアとポルトガルの不良債権に投資する3.3億ユーロのハイイールド債ファンドを創設した。その利回りは5%程度であるという。また運用会社が欧州不良債権投資のために、シティ、モルガンスタンレーなど米国の大手銀行から資金を買入れるケースも増えているという。欧州周縁国の不良債券投資のケースでは、ベンチマーク金利に4%程度のスプレッドが乗るという(注4)。

欧米の投資家、金融機関が欧州不良債権買取りを積極化させている背景には、低金利環境の下で収益を求める「サーチ・フォー・イールド」があるとみられる。こうした傾向は、欧州の銀行にとっては、売却を通じた不良債権処理を進める絶好のチャンスであるとも言える。しかし、適正な価格よりも低い価格で米国投資家が欧州不良債権を購入する場合には、リスクが欧州金融機関から米国金融機関に移転することになることから、必ずしも持続的なものとはならない可能性がある。

欧州銀行、各国、金融当局は、経済環境の改善を通じて資産の質を高めるとともに、売り手と買い手との間の情報格差を縮小し、また市場の流動性を高めることを通じて、売買される不良債権の適切な価格形成がなされるように努めることが重要である。


(注1)"The EU banking sector – Risks and Recovery A single market perspective", Andrea Enria, 30 January 2017
(注2)ロイター(2017年2月3日)
(注3)“Resolving non-performing loans: a role for securitisation and other financial structures?”, May 3, 2017
(注4)"US banks eye European non-performing loans", Financial Times, July 20, 2017

Writer’s Profile

木内登英Takahide Kiuchi

エグゼクティブ・エコノミスト

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