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米国年金積立不足と社債発行

2017年08月23日

法人税率の引き下げ観測が米企業の社債発行を促す?

最近では白人至上主義問題によって国民からの支持を一段と低下させ、与党共和党内部からも批判が強まるなか、トランプ米大統領は、野党民主党から相応の支持を得られる見通しがある税制改正の議論を進めることで、民主党との融和や共和党内での結束を強化する考えである、とも伝えられている。その税制改正の柱の一つである、法人税率の引き下げ観測が、実は企業の社債発行を促している面もあるという(注1)。

法人税負担を節約する効果

年金積立不足への対応として、米企業は年金資産の積み増しを実施しているが、これは法人税控除の対象となる。現在であれば35%の法人税が控除されるが、今後法人税率が引き下げられると、控除額が減少してしまう。つまり税負担を節約するため、税率の引き下げを見越して早めの年金の資産積み増しが行われているのである。そしてInternational Paper(製紙)、Valvoline(石油精製)、Kroger(食料雑貨)といった米国企業は、こうした観点から、年金資産の積み増しを前倒しで実施するために社債の発行を行っているという。

企業の年金積立不足額に対してペナルティ

他方、年金プラン加入者の受益権を守るために、米国では年金積立不足に対して企業がその責任を厳しく追及される傾向がある。それを管轄する連邦政府機関の年金給付保証公社(PBGC:Pension Benefit Guaranty Corporation)は、企業の年金積立不足額に対してペナルティを課している。ペナルティ率は確定拠出型年金プランに加入する従業員の数と年金積立不足額によって異なるが、標準水準は不足額に対して現在3%台であるとみられる。この水準は2012年までは1%程度であったが、その後は毎年引き上げられ、2019年には4.2%に達するとされている(Bank of America Merrill Lynchによる)。

一方、投資適格社債の利回りは平均で3%強と、2017年には僅かにペナルティ率の水準を下回っている。それ以前は、投資適格社債の利回りはペナルティ率の水準を上回っていたのである。つまり、今年になってからは、社債発行を通じて資金を調達し、それを年金積立不足対応の拠出に充てることは、経済合理性に適うようになったのである。

米国社債市場の活況を支える一側面

このように、先行きの法人税率引き下げ観測、企業の年金積立不足に対するペナルティ率と先行きの引き上げ見通し、現在の社債発行を通じた資金調達コストをそれぞれ睨んで、まさにベストのタイミングで米企業は社債発行を行い、年金の積立不足に対応した拠出を実施しているのである。米国社債発行は、現在、歴史的高水準にあるが、これも米国社債市場の活況を支える一側面である。


(注1)"Bond sales seek to lock in savings on pension deductions ahead of tax shake-up", Financial Times, August 21, 2017

Writer’s Profile

木内登英Takahide Kiuchi

エグゼクティブ・エコノミスト

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