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金融庁の組織改革と日本銀行との業務調整

2017年08月22日

<要旨>
金融庁が、来年夏に、検査局を廃止する大規模な組織改革を予定していると報じられている。検査によるミクロ・プルーデンス(金融機関の健全性)の強化から、金融機関に適時適切な融資を促すことへと政策の重点を移すことなどを通じて、地域経済の活性化や企業の生産性向上に繋がることが意図されている。しかし実際には、そうした政策の転換はかなり以前から実施されてきているものであり、今回の組織改革は実体を後追いしているという印象もある。これとは別に、プルーデンス政策の領域では、金融庁と日本銀行の業務の調整が大きな課題であると筆者は長らく考えてきた。具体的には重複感がある金融庁の「検査」と日本銀行の「考査」との間での役割・機能分担の明確化、マクロ・プルーデンス政策における、法整備を伴う両機関の役割・機能分担の明確化、である。

金融庁が大規模な組織改革

8月22日付けの日本経済新聞(注1)は、来年夏に予定している金融庁の大規模な組織改革を報じている。検査局を廃止し、その機能を監督局と新たに創設される総合政策局に移行させることが、改革の目玉であり、また象徴である。これは、「金融規制庁」から「金融促進庁」への転換という、政府の意向を反映したものと言えるだろう。検査によるミクロ・プルーデンス(金融機関の健全性)の強化から、金融機関に適時適切な融資を促すことへと政策の重点を移すことなどを通じて、地域経済の活性化や企業の生産性向上に繋がることが意図されている。

グローバル金融危機で金融行政は事実上転換か

こうした政策の重点シフトの妥当性は十分に理解できるところである。しかし実際には、それはかなり以前から実施されてきているものであり、今回の組織改革は、実体を後追いしているという印象もある。大蔵省改革の一環で、金融庁の前身である金融監督庁が設立されたのは1998年、それが金融庁に改組されたのは2000年である。しかしその時点で、日本の金融安定化策は既にピークを越えつつあった。

さらに金融行政に転換を迫ったのは、2008年のグローバル金融危機であった。金融危機後の中小企業の金融面からの支援策として、2009年12月に「中小企業者等に対する金融の円滑化を図るための臨時措置に関する法律」、いわゆる「金融円滑化法」が、民主党政権下で成立した。これは、中小企業が返済繰り延べ、金利減免、貸出期間の延長などの貸付条件の変更を申し込んだ場合に、金融機関がそれに応じる努力義務を課す時限法であった。同法は2度の期限延長が行われた後、2013年3月末で失効している。しかし同法の失効後も金融庁の金融監督・検査においては、中小企業の貸付条件変更の要請に応えることが金融機関には求められ、法律から金融行政に姿を変えて、同法の効果は事実上現在も続いていると言えるのではないか。

「検査」と「考査」の重複

ところで、この金融庁の組織改革とは直接的には関係はないが、プルーデンス政策の領域では、金融庁と日本銀行の業務の調整が十分になされていないという問題意識を、筆者は長く抱いてきた。第1は、ミクロ・プルーデンス政策における、金融庁の「検査」と日本銀行の「考査」との間の業務の重複である。具体的な論点は3つあり、①複数の監督・検査当局が併存することは、社会的コストがかかるという点、②その責任を曖昧にさせてしまうという点、さらに③検査及び考査の対象となっている対象金融機関の負担増加という点、である。

③の点については、金融機関にとっては、検査と考査の双方を受けることは極めて大きな負担であり、その不満は絶えず表明されてきた。こうした不満の背景にあるのは、実は両者が極めて類似している点であるという。「検査」は法令違反をチェックするのに対して、「考査」は、金融システムの安定(信用秩序の維持)というマクロ的視点に基づいて、個別金融機関の資金ポジションや経営状況などをチェックするものと、目的別あるいは概念的には両者は明確に区別されてはいる。しかしながら、対象となる金融機関にとっては、両検査の内容やその背景の差異をはっきり認識できないほど両者が極めて類似したものであるとの認識であることが、負担感を増幅しているのである。この点は1998年の日本銀行法改正でも議論の対象になったものの、見直されることはなかった。

金融システムが不安定な状況のもとでは、「検査」と「考査」の重複は、いわゆるダブルチェック機能を果たすことが期待されるというプラス面が認識されやすいが、現在はそのような状況ではない。金融庁が「検査」の在り方を見直し、組織改革を進める際には、日本銀行との「考査」との間の役割分担などを、より明確にしていくことが重要なのではないか。

マクロ・プルーデンス政策での役割分担の不明確さ

第2は、マクロ・プルーデンス政策における、金融庁と日本銀行の責任や役割が明確でないことである。米国や英国のように、中央銀行が規制当局である国では、マクロ・プルーデンス政策手段の発動は、中央銀行がその決定権を有することが多い。他方、中央銀行を含めて規制当局が複数分立する場合には、マクロ・プルーデンス政策を担う「合議体」が組織されるのが一般的である。これに対して日本では、マクロ・プルーデンス政策を担う機関が明確ではない、という問題がある。一般的には、金融システムの安定確保に責任を持っている日本銀行と金融庁が協調してマクロ・プルーデンス政策を担っていると考えられている。さらに詳細に見れば、金融機関の経営環境や金融市場の動向に関する知見を有する日本銀行と行政権を持つ金融庁が、共同で政策手段の発動の判断を行い、実際に発動するのは規制当局の金融庁、というのが一般的な理解であろう。

しかしこの点については、明示されておらず、また制度に関してどのような議論がなされているかについても、一般には明らかになっていない。①マクロ・プルーデンス政策手段の有効性に関する不確実性、②マクロ金融政策との利益相反の問題、③クレジットサイクルの特定に関わる難しさなどが、日本におけるマクロ・プルーデンス政策の制度的枠組みに関する議論を遅らせているのかもしれない。また、金融システムが安定を維持するなか、マクロ・プルーデンス政策の必要性に関する意識が低いせいであるのかもしれない。

ただし、金融環境が前触れもなく急速に不安定化することは、近年のグローバル金融危機の経験でも明らかである。そうした事態に直面した際に、マクロ・プルーデンス政策を担う主体、責任の所在が不明確のままでは、必要な対応を機動的にとることができない可能性もあるだろう。この点から、日本においても、マクロ・プルーデンス政策の制度的枠組みの整備が、早急に進められるべきであると筆者は強く考えている。

日本のマクロ・プルーデンス政策手段のなかで、足もとで制度整備の進展が唯一見られたのは、「カウンター・シクリカル資本バッファー(CCyB)」である。CCyBは、国際金融規制の枠組みであるバーゼルⅢの自己資本比率規制の可変的上乗せ部分をいい、過剰な貸出の拡大が、金融システム全体のリスクの蓄積に繋がっていると判断される局面で発動される。2017年2月17日に金融庁は、監督指針の改正案という形で、金融庁と日本銀行の連携を含むCCyBの決定プロセスに関する枠組みの案を公表し、パブリック・コメントを求める手続きを開始した(注2)。さらに同手続きの完了を経て、4月1日に同枠組みは発効した。CCyBの運用に関わるこのような制度整備の動きは、マクロ・プルーデンス政策に関わる制度整備の第一歩として評価できるものである。しかしながら、他国と比べて遅れている同分野における制度整備については、さらなる進展を期待したいところである。特に、金融庁の監督指針の改正という形ではなく、金融庁と日本銀行が共同でマクロ・プルーデンス政策を担うことを、他国のように明確な法律で定めるべきであろう。その中で、現在の「金融庁・日本銀行連絡会」をより正式なマクロ・プルーデンス政策を決定する組織として位置付けることが重要であると筆者は考えている。


(注1)「金融庁、検査局を廃止」日本経済新聞社・朝刊(2017年8月22日付)
(注2)「『主要行等向けの総合的な監督指針』等(案)の公表について」2017年2月17日、金融庁

Writer’s Profile

木内登英Takahide Kiuchi

エグゼクティブ・エコノミスト

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