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米国の実店舗小売販売からネット販売へのシフトとその経済効果

2017年08月22日

<要旨>
Amazon社は、買収などを通じて米国で実店舗の展開を加速させている。これは、ネット販売というビジネスモデルと、実店舗での販売というビジネスモデルとの融合、あるいは前者から後者への回帰の動きとも読める。しかし実際には、ネット販売の実店舗販売のビジネスを奪う動きが米国では依然続いているのである。これは、経済効率を高める側面がある一方、不動産市況、建設投資、雇用にはマイナスの影響を与えることになる。この点は、景気が堅調な現時点では大きな問題にはならないが、将来景気が後退に転じる局面においては、無視できないマクロ的な影響を生じさせる可能性もあるだろう。

国内消費マインドにはなお力強い改善はみられない

先般発表された日本の4-6月期のGDP統計(一次速報)で、実質個人消費は予想を上回る増加率を示した。しかし「消費動向調査」の消費者態度指数は、過去半年程度は概ね横ばいとなっており、消費者センチメントには目立った改善は確認されていない。他方、個人消費関連の企業に景況感を問う「景気ウォッチャー」調査の家計動向関連・現状判断DIは、年初から緩やかな改善傾向にあるものの、その水準は最新7月で48.1と判断の分かれ目である50をなお下回っており、企業関連DI、雇用関連DIと比べても回復力が弱い。消費者あるいは消費関連企業のマインドには、なお明確な改善傾向はみられない。

ネット販売が実店舗の小売業の景況感に打撃

小売業の景況感に悪影響を与えている要因の一つとして、最近注目されているのが、ネット販売との競合である。最新の7月「景気ウォッチャー」調査でも、南関東(東京都)の家電量販店の店長は、「競合店の値引きが落ち着いても、インターネット通販の影響があるため、実店舗は厳しい状況が続いている」と回答している。これは、家電量販店がネット販売に売り上げを奪われている、あるいはその恐れがあることから値下げを強いられている、という現状を表していよう。

本コラム「ネットショッピング拡大の物価への影響」(2017年7月31日)で見たように、日本では、オンラインの小売価格は実店舗での小売価格よりも13%程度低く、この両者の差は調査対象国中最大である、という研究結果がある。このため、実店舗での小売価格がオンラインの小売価格にサヤ寄せされる形で、なお低下する余地が他国よりも大きいものと考えられる。

米国ではネット販売から実店舗への回帰もみられるが

ところで、米国ではオンラインショッピングは既に相応に広まっており、また同じ研究結果によれば、オンラインの小売販売価格と実店舗での小売販売価格の格差は5%程度に過ぎないことから、日本ほどには、実店舗でのビジネスがネット販売の悪影響を受けていない、との印象もある。

またここ数年Amazon社は、買収などを通じて米国で実店舗の展開を加速させてきた。2017年6月には、食品小売り大手の「米ホールフーズ・マーケット」を買収することも発表した。これはネット販売というビジネスモデルと実店舗での販売というビジネスモデルとの融合、あるいは前者から後者への回帰の動きとも読める現象である。

米国でなお続くネット販売の実店舗販売への打撃

ところが実際には、米国で、ネット販売の実店舗販売のビジネスを奪う形での、小売業の変革の強い動きはなお続いているのである。その結果、店舗、ショッピングモールなどの過剰感が強まっている。例えば、老舗百貨店のシアーズは、今年に入ってから全米で300店舗以上の閉鎖を発表した。このような店舗の閉鎖が続いた結果、店舗数は5年前の半分強の水準まで低下したという。また、クレディスイス社の試算によれば、2017年の閉鎖店舗総面積は、2008年のグローバル金融危機後の大不況時を上回るという(注1)。これは、多くのモールに投資してきたリートのビジネスにも打撃を与えている。

実店舗販売からネット販売へのシフトは、建設投資にも影響しよう。新たに倉庫、輸送関連などで新規投資が促される側面はあるものの、既存の新規店舗建設が減少する効果を相殺できるかどうかは疑問である。

雇用にも影響が及び

さらに実店舗閉鎖の影響は、雇用にも及んでいる。米国での雇用環境は、全体としては良好であるが、小売業の雇用は、家具、衣料品、食料品を中心に減少している。それは、小売販売が実店舗からネット販売に移る中、ネット販売はより労働集約性が低く、労働生産性が高いことによるのである。ネット販売の拡大は、倉庫、輸送などでは新規の雇用を生むが、それは実店舗閉鎖に伴う販売員、レジ係などの雇用減少を補うほどではない。

将来の景気後退時の影響を注視

実店舗からネット販売への売り上げシフトは、経済全体の効率を高めることに少なからず貢献する面がある。しかし、不動産市況、建設投資、雇用にはマイナスの影響を生じさせよう。これは景気が堅調な現時点では大きな問題にはならないが、将来景気が後退に転じる局面においては、無視できないマクロ的な影響を生じさせる可能性もあるだろう。こうした観点からも、米国でのネット販売拡大の動きを注視しておきたい。


(注1)“Data show the rising toll of online shopping on US jobs, equities and real estate investors”, Financial Times, August 18, 2017

Writer’s Profile

木内登英Takahide Kiuchi

エグゼクティブ・エコノミスト

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