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金融機関のブレグジット対応とEU共通免許の付与条件の原則

2017年08月21日

<要旨>
ロンドンに欧州拠点を持っていた日本の大手銀行、証券会社については、ブレグジットに備えてEU内での「単一パスポート制度」を取得するための大陸拠点の選択が概ね固まり、既に免許申請も行われている模様である。ところでブレグジットを睨んでEU諸国では、他のEU加盟国よりも緩い条件で免許を与える可能性を示唆して、英国からの金融機関拠点の誘致合戦が盛んに行われてきた。それが将来の金融監督を歪め、また金融システムの安定に悪影響を与えることが懸念されたため、欧州証券市場監督局(ESMA)は、各国金融当局が域外金融機関に与える免許の基準に関する方針を9つの原則として2017年5月末に打ち出している。そこで特に強く指摘されているのは、実際の活動に乏しい、形だけの拠点(letterbox entities)に免許を与えることがないようにすべき、という点である。この原則は、一部の金融機関にはブレグジット対応の戦略見直しを迫るものとなった可能性もあるが、全体的にはEU共通免許取得に関わる不確実性を低下させ、その対応を促した面もあろう。

日本の大手銀行・証券の大陸拠点の選択

ロンドンに欧州拠点を持っていた日本の大手銀行、証券会社については、ブレグジットに備えてEU内での「単一パスポート制度」を取得するための大陸拠点の選択が概ね固まり、既に免許申請も行われている模様である。大手証券会社については、フランクフルトを新たな拠点とする方針であり、そのため、ロンドン拠点から数十人程度を移動させると報じられている(注1)。この比較的小人数でも「単一パスポート制度」が取得できる目処が立つのは、おそらく証券業の免許であるためであり、銀行業の免許であればもっと基準が厳しいと推察される。

EU域外金融機関へのEU共通免許付与の問題

ブレグジットを睨んでEU諸国では、英国からの域外金融機関拠点の誘致合戦が盛んに行われてきた。しかしその際に、他のEU加盟国よりも緩い条件でEU共通免許を与える可能性を示唆して誘致を図る動きがあり、問題視されたのである。実際に緩い条件で免許が付与されれば、それは将来の金融監督を歪め、また金融システムの安定に悪影響を与えることが懸念されたためである。

そこで欧州証券市場監督局(ESMA: European Securities and Markets Authority)は、各国金融当局が域外金融機関に与える免許の基準を揃える方針を2017年5月末に打ち出した(注2)。そこで特に強く指摘されているのは、域外金融機関を誘致するために、実際の活動に乏しい形だけの拠点(letterbox entities)、抜け殻(shell)のような拠点に免許を与えることがないようにすべき、という点である。

EU共通免許付与に関する9つの原則

ESMAがEU各国の金融規制当局に示したのは、EU共通免許付与に関する以下の9つの原則であった。

①英国で取得した免許を自動的に認めてはならない
②各国金融当局が与える免許は、厳格で効率的でなければならない
③各国金融当局は、拠点を移転する目的・理由を証明できなければならない
④実際の活動に乏しい形だけの拠点(letterbox entities)を認めてはならない
⑤域外国への業務・人材の委譲は、厳格な条件下でのみ認められるべきである
⑥各国金融当局は、域外金融機関の拠点が実質的な条件を満たすようにしなければならない
⑦各国金融当局は、域外金融機関の拠点に対してEUの組織による健全なガバナンスが働くようにしなければならない
⑧各国金融当局は、域外金融機関の拠点に対して効率的な監督がなされ、またEU法に従うようにさせなければならない
⑨各国金融当局は、免許付与に際して、ESMAがしっかりとモニターするように調整しなければならない

“letterbox entities”を認めない

既に述べたように、ESMAは、ブレグジット後も金融機関がロンドンに拠点機能のほとんどを残しつつ、形式的にEU域内に実際の活動に乏しい形だけの拠点(letterbox entities)、抜け殻(shell)のような拠点を作ることに対してEU共通免許が与えられることがないように強く警戒している。そこでESMAは、拠点の人数もしっかりと把握するように求めているのである。また、管理者(executive)が拠点にいるかどうかもチェックするように求めている。こうした考えは、欧州中央銀行(ECB)にも支持されているという。

金融機関のブレグジット戦略に影響も

ESMAが示した原則は、拘束力、強制力はないものの、各国の金融規制当局が、英国からの域外金融機関の拠点を誘致するために、緩い基準でEU共通免許を与えるという競争に歯止めをかける効果は既に発揮されていると期待できるだろう。ESMAは、これら原則が守られるかどうかを今後もレビューし、違反がないかどうかの検査を主導するとしている(注3)。

従来は、ロンドンに拠点機能を残しつつ、形式的にEU域内に新たな拠点を作り、免許を取得することを目指している金融機関もいたと見られる。彼らにとっては、ESMAが示したこの原則は、ブレグジット対応の戦略に大きな見直しを迫るものとなったことも考えられる。

しかしこうした原則を示したことは、英国からEU域内への拠点の移転を考える域外金融機関にとって、不確実性を低下させることを通じて、そうした活動をむしろ後押しする効果もあったものと考えられる。ESMAは各国の金融機関に、ブレグジットへの対応を早めに進めるように従来から呼びかけており、このような原則を示したことは、そうした取り組みの一環であったとも解釈できるのである。


(注1)日本経済新聞(2017年8月4日付)
(注2)https://www.esma.europa.eu/sites/default/files/library/esma71-99-469_esma_issues_principles_on_supervisory_approach_to_relocations_from_the_uk.pdf
(注3)"EU Makes Rules for Brexit Moves", Asian Wall Street Journal, June 1, 2017

Writer’s Profile

木内登英Takahide Kiuchi

エグゼクティブ・エコノミスト

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